イタリアの地方料理に学ぶ家飲み(1)

イタリアとドイツの文化が融合するアルト=アディジェ地方。そこで愛されるワインと料理とはどんなもの?

ライター:京藤好男京藤好男
メインビジュアル:イタリアの地方料理に学ぶ家飲み(1)

なぜ今イタリアでドイツ系ブドウの白ワインがブームなの?

最近のイタリアで、ドイツ系のブドウを使った白ワインが人気です。ドイツの白ワイン用品種といえば、リースリング、シルヴァーナ、ミュラー・トゥルガウ、ゲヴェルツトラミネールなどが代表的。そして、その味わいと言えば、どれも「甘口」のイメージが強いかもしれません。しかし、同じブドウをイタリアの地で栽培すると、そのワインのニュアンスは変わります。太陽が燦々と照るイタリアの気候の下、ブドウは完熟度を増し、ワインは口当たりの良さ、新鮮さ、そして果実味が際立つようになります。さらに1990年代後半、かつてはドイツ圏だったアルト=アディジェ地方(南チロル)の醸造家ハンス・テルツァー氏が、有名グルメ誌の選ぶ「最優秀エノロゴ10人」に名を連ねたことで、そのクオリティーの高さにも注目が集まり、今の人気に繋がっています。

最近ではそうしたドイツ系のブドウに、土着の白ブドウをブレンドしたイタリア独自のワインも次々と開発されています。これらはコストパフォーマンスにも優れ、いわば「安旨ワイン」の穴場的な存在になっているのです。

では、そんな新スタイル・ワインはどのような料理と相性が良いのか。家飲みのヒントを探るべく、第一人者のもとを訪ねることにしました。

今回訪れたのは世田谷区豪徳寺の「クチーナ・チロレーゼ三輪亭」。シェフの三輪学さんは、別名「南チロル」とも呼ばれるアルト=アディジェ地方で修業した経験の持ち主。その地方料理の真髄を受け継ぎ、2007年に東京に戻ってお店をオープン。私が知る限り、日本で唯一のチロレーゼ(チロル風)料理専門店です。

「アルト=アディジェ地方は、オーストリア、スイスと国境を接するイタリア最北端の地で、元々はオーストリア帝国の支配下にありました。政治的に複雑な歴史をたどって、現在はイタリアに属していますが、文化的にはドイツ語圏の影響が色濃く、料理やワインもドイツ系やオーストリア系が主流です。しかし、それらがイタリア化されているのが、おもしろいところですね」

イタリア最北部で生産される上質の白ワインのお味は?

そう解説していただきながら、まずはイチ押しの白ワインをご紹介いただきました。それがこちら。
オムネス・ディエス(Omunes Dies)
ドイツ系のミュラー・トゥルガウ種と土着のモスカート・ジャッロ種を50%ずつブレンドしたという「オムネス・ディエス(Omunes Dies)」。まさにドイツとイタリアの融合を体現したとでもいうべきワインです。

グラスに注がれるや、いきなりフローラルな香りがテーブル全体に漂います。口にすると、まずは柑橘系、特にグレープフルーツのニュアンス。さらにじっくり味わうと柑橘系独特の苦味もにじみ出てくるのですが、決して偏らず、酸味とのバランスが絶妙の、大人の味わいを構築しています。

ドイツ系ブドウのワインには、やっぱりドイツ流の料理を

「ステンレスタンクでの熟成ですが、これくらいボディのある白ですと、肉系の料理と合わせてもおもしろいですね」

そうしていただいた料理が「メラーノ風粗挽きスモークヴルストのロースト」。ヴルストとはドイツ語で「ソーセージ」のこと。メニューに、そのままドイツ語が使われているのが、この地方らしいですね。定番はやはりドイツ系の料理なのです。
メラーノ風粗挽きスモークヴルストのロースト
ドイツならビールを合わせるのでしょうが、今日は白ワインでさっぱりと。すると、ワインのコクが引き立ちます。これには驚き。ワインの酸味が肉汁や脂身で中和され、まろやかな印象に変わりました。この組み合わせは絶妙だと、意外な発見に感激です。

もっと手軽にヴルストを味わえるドイツ流のアレンジ

さてこの話を、私の大学の仕事の友人である、ドイツ人のヨズア・バルチュ先生にしてみると、ほかにもあるヴルストの本場の食べ方を教えてくれました。それが「カリーヴルスト」です。その名の通り、カレー味のソーセージ。日本の食卓でも簡単にできる、「家飲み」にイチオシのレシピです。

「これは戦後のベルリンが発祥とされる料理。元々はヴルストにケチャップとカレー粉をかけて売ったのが始まり。今は、ソースに工夫を凝らして、いろいろなお店が独創性を競っているよ。ドイツに行ったら、どこの町にも、このカリーヴルストのお店や屋台があるよ。言わば、我々のストリート・フードだね」

そうして作ってみたのが、こちら。
カレー味のソーセージ
今回はイタリア風のソースにしてみました。作り方はこんなにシンプル。

フライパンでタマネギを炒め、パプリカ・パウダーで下味をつけます。タマネギがしんなりしてきたら、ケチャップとトマト・ピューレを半々の量で加えます。クツクツと煮立ったところで、お湯を少々入れて伸ばします。最後にクミン・パウダーとカレー粉を混ぜてできあがり。

香辛料は、日本のスーパーでも簡単に買えるものを使用し、分量は一般的なレシピを基本に、好みで調節しています。自分流でまったくオッケーですよ。
(目安として: ソーセージ4本(バーベキューで焼くような大きなもの), タマネギ1個, カレー粉大さじ4杯. パプリカ・パウダー大さじ1杯, クミン・パウダー大さじ1杯, お湯50cc, トマト・ピューレ250g, ケチャップ250g, 塩少々, オリーブオイル適量)
材料
香辛料を除けば、パスタのトマト・ソース作りと似ているのがイタリア風というわけ。このソースを、3分ほど茹でたヴルストにたっぷりかけていただきます。
イタリアでは、ポテトチップスが好まれるとか
ドイツでは、フライドポテトを添えていただくようですが、イタリアでは、ポテトチップスが好まれるとか。一口食べてみると、早速スパイスの香りが口に広がり、オリエンタルな雰囲気に。しかし、トマトの酸味がスパイシーさをほどよく和らげてくれており、ヴルストとうまく絡み合って、むしろさっぱりといただけます。これなら何本でも行けそう(笑)。

今回はヴルストに辛口の白ワインを合わせてみましたが、ヴルストのスパイシーさを考慮すると、よりミネラル感の強い白がより適切だと思います。その意味では、イタリア産のドイツ系ブドウの辛口白ワインとの相性は抜群です。またドイツワインでも、微発泡の辛口白ワインなどはスパイスの効いた料理によく合います。そしてもちろん、ドイツ流ならビールでも間違いなしです。


※記事の情報は2018年5月6日時点のものです。
 
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