生酛(きもと)・山廃(やまはい)とは?【味わいに幅とコク、燗にもってこい】
酒屋さんの棚に並ぶ日本酒、時折目につく「生酛造り」とか「山廃仕込み」の文字。いったいコレはなんでしょう?ちょっと複雑なこの2つの言葉をスッキリ解説(のつもり)!
3種の酒母
日本酒造りでは大きく二段階にわけて発酵を行います。第一段階は「酒母」と呼ばれるもので、小さなタンクで、水、米、麹をあわせて、酵母菌を大量に繁殖させる事を目的とします。昔はこれを「酛(生酛の酛)」と呼んでいました。この酒母=酛を言わば「発酵のタネ」に使い、第二段階の本仕込みで、本番の大量のお酒を仕込みます。この酒母には製法の違いからいくつか種類があり、主には次の3種類です。
(1)速醸酛(そくじょうもと)
明治末期に登場し、現在の主流。
(2)生酛(きもと)
江戸時代から続く伝統的な酒母。
(3)山廃酛(やまはいもと)
生酛の改良型で明治初期に確立。
現在、ほとんどの日本酒は(1)速醸酛で造られていますが、(2)生酛や(3)山廃酛を使って造るお酒を、特に「生酛造り」や「山廃仕込み」と呼んでいます。複雑な奥の深い味わいで、日本酒ファンの注目を集めています。
ポイントは乳酸
酒母は酵母菌の大量繁殖が目的です。酵母菌の食べ物はお米を材料に麹菌の酵素が作り出した糖分です。ところが酵母菌以外の様々な雑菌もこの糖が大好き。つまり競争相手がまわりにわんさかいるのです。この邪魔者たちを駆逐するため、乳酸という強い酸を添加します。酵母菌は酸には強いため、雑菌たちが乳酸に阻まれて脱落していく中、頑張って数を増やしていけるのです。こうして人工的に乳酸を加えて酵母菌を増やす製法が、現在の主流「速醸酛」です。明治の末期に開発されました。「速醸」というだけあって、他の2種類の酒母が出来上がるまでに4週間程度かかるのに比べ、その半分、二週間ほどで完成します。
生酛は伝統的な酒母造り
生酛が確立した江戸時代には、酵母菌も、乳酸菌と同じように蔵に住み着いているものを自然に繁殖させていました。顕微鏡も無く、温度管理も完全手動方式の江戸時代、様々な微生物の混合状態から、まず乳酸菌を優先的に育て、十分に乳酸が増えたら、今度は酵母菌が増えるように「誘導」していく……まさしく匠の世界。そもそも微生物の存在も知られていなかったわけですから、職人の五感と絶え間ないトライアンドエラーの末に確立した技術だったのでしょう。そんなまるで錬金術のような酒母造りが継承され、今に伝わっているのが「生酛造り」です。
山廃は生酛の弟分
山卸しとは乳酸菌を増やす準備としてお米を潰す作業で、これをすることで乳酸菌の食べものである糖分ができやすくなります。この山卸しは寒いさなかに夜通し行う重労働です。これをやらなくても良くなれば、蔵人たちも大助かり……というわけで、山卸しを省く製法が研究されました。明治も中頃になると精米の技術も上がり、高い能力を持つ麹菌も培養されるようになり、さらに仕込み作業を工夫することで、大変な山卸しをしなくても酵母菌の培養ができるようになったのです。これが山廃。生酛の弟的な存在といえるかもしれません。
燗にもってこい
※記事の情報は2018年4月4日時点のものです。
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