名店「神戸サンボア」に教わる極上の“氷なしハイボール”の作り方

「サンボア」といえばハイボールの名店。100年前、神戸で産声を上げたバー「サンボア」の味と技術は弟子らに受け継がれ、現在では、暖簾分けされた計14店が大阪、京都、東京でその伝統を守っています。北新地、銀座、浅草、そして2021年に創業の地・神戸に67年ぶりの出店を果たしたオーナーバーテンダー・新谷尚人さんに、「氷なしで最後の一滴までおいしい」伝説のハイボールの作り方を伝授していただきました。

ライター:青柳直子青柳直子
メインビジュアル:名店「神戸サンボア」に教わる極上の“氷なしハイボール”の作り方

この方にお聞きしました

新谷尚人さん(しんたに なおと)

1961年大阪生まれ。関西大学在学中の1983年にアルバイトとして「南サンボア」に入店。大学卒業後、高校の英語科講師として教壇に立つかたわら、1986年「サンボア・ザ・ヒルトンプラザ店」の開業時に入店。1994年、独立し「北新地サンボア」を開業。2003年「銀座サンボア」、2011年「浅草サンボア」、2021年「神戸サンボア」を開業。著書に『バー「サンボア」の百年』(2017年・白水社)。

新谷尚人さん

100年間愛され続ける氷なしハイボールとは

名店「サンボア」のハイボール
─「サンボア」と言えば氷なしのハイボールが代名詞ですが、なぜ氷なしなのでしょうか。

「昔、氷は新聞紙なんかにくるんで、木製の冷蔵庫の木箱の中身を冷やすためのものだったんですよ。地面に置くから土も付いているし。そんなものを入れる訳にはいかないでしょ? それに氷の値段も高かったしね。

だから昔は炭酸水とウイスキーを冷やして、氷は入れない、というのがハイボールのスタンダードだったんです。イギリスのカクテルブックにも、このレシピでハイボールと明記されています」

─氷なしのハイボールは「コウベハイボール」という呼称で、近年話題となっているようですが…。

「そういう風に呼ばれるようになったのはごくごく最近のことです。今、お話ししたように、昔は全国どこでもハイボールといえば氷なしだったんですよ。だから神戸発祥でもないし、『サンボア』発祥でもない。そこのところは誤解のないようにしてもらえたらと思います」

─そうだったんですね。それが「コウベハイボール」と呼ばれるようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか。

「数年前にサッポロさんがデュワーズを、サントリーさんがメーカーズマークを使って、サンボアと同じやり方で作ったハイボールを『コウベハイボール』として売り出したのがきっかけのようです。サントリーさんがCMで『ハイボール』という呼称を大々的にリバイバルしてくれたことは好意的に受け止めています。当時は『ソーダ割り』と言う方が多かったですから。

そんな経緯があるので、『コウベハイボール』を氷なしハイボールの呼び方の一つだと思われている方もいるかもしれませんが、元々は店の名前だったんです。戦時中、一度は途絶えた『サンボア』でしたが、戦後、京都と大阪に復活して、神戸も昭和27年にお店が戻ってきたんです。ところが、造船業とともに景気が浮沈した神戸では、京都や大阪のような値段では売れなかったんですよ。安いウイスキーを出す店なら『サンボア』と名乗らない方がいい、という判断で『コウベハイボール』に改名したんです。ちょっとややこしいですが、説明するとそういうことです。ちなみにこの『コウベハイボール』は、1990年(平成2年)に閉店しました」

─なるほど、長い歴史がある「サンボア」ならではのエピソードですね。となると、「サンボア」が結果的に約100年間、昔ながらの氷なしハイボールを守ってきた、ということでしょうか。

「そういうことになりますね。冷凍冷蔵庫が普及して氷が安価になったので、世間一般では次第にハイボールにも氷を入れるようになった。ただ、うちは従来のスタイルを踏襲して何も変えなかっただけです。なぜ変えなかったのかは知りません(笑)。師匠がずっと昔ながらのスタイルを守ってきたから、当然僕らも守っている。それだけのことです。氷が溶けて薄まらないから、そのまま最後までおいしい、というのは理由としてあったと思います」

若い頃に飲んだ「サンボア」のハイボールが生きる気力に

─2021年には、発祥の地である神戸に67年ぶりに「サンボア」が復活しましたね。長く待たれていたファンもいらっしゃったと思います。

「そうだと思います。待ってくれていた、といえば、こんな話があります。ある方が就職して初めて、先輩に『堂島サンボア』に連れて行ってもらい、ハイボールを飲んで、『おいしいな、頑張っていつかは自分のお金で飲めるようになりたい』と思ってくださったそうです。『サンボア』ではウイスキーのご指定がない限り、昔からハイボールにはサントリーウイスキー 角瓶を使っていますが、その当時、“サントリーの角”といえば、庶民にとっては高嶺の花でしたから。その後、その方は東京に転勤になり、そのまま定年を迎えられたそうです。

そして、私が東京・銀座に『サンボア』を出店したのが、2003年のこと。新聞に掲載された開店を報せる記事を見たその方は、『サンボアの方から東京にやってきてくれた』とたいそう喜んでくださったそうです。当時、その方は入院されていたのですが、『もう一度、サンボアのハイボールを飲むぞ』という気持ちで回復された際に飲みに来てくださったんですよ。奥様いわく『サンボアに生かされました』と。長くやっていると、そういう思いを持ってくださる方もいらっしゃいますね」

サンボア流ハイボールを家でもおいしく飲む秘訣は?

─それは胸が熱くなるエピソードですね。ハイボールに限らず、バーで飲むお酒は格別な魅力がありますが、どうしたら家でもおいしく飲めますか?

「そうですねえ、うちはスタンディングなんで、家でも立って飲んだらええんちゃいますか?(笑) それか、作ってくれた人にお金を払うとか(笑)。私も自分で作ったお酒より、他で飲んだ方がおいしいですもん。ま、そんなもんですわ(笑)。
「サンボア」の店内
まあ、お店の雰囲気も含めてトータルでってことでしょうね。例えばうちでは、グラスは手吹きのカガミクリスタルを使ってますし、毎日、店内のすみずみまで掃除していますし。
手吹きのカガミクリスタルグラス
ハイボールに限って言うと、作り方はごくごくシンプル。なにも難しいことはありません。しいて言うなら、『ぬるくならないうちに早く飲む』ってことでしょうか。昔は『10分でハイボール1杯飲めないとサンボアの常連じゃない』なんて言われていたそうですから(笑)。

おつまみには、アーモンドやピーナッツ、あられ、揚げグリーンピースなんかが合いますね」

オーナーバーテンダー直伝! サンボア流ハイボールの作り方

サンボア流ハイボールの材料

●サンボア流ハイボール(1杯分)

材料

  • ウイスキー(サントリーウイスキー 角瓶) 60cc
  • アサヒ ウィルキンソン炭酸 1本(190ml瓶)
  • レモンピール 少々(爪くらいの大きさ)
作り方

①冷蔵庫を1℃の設定にし、ウイスキーと炭酸水を冷やしておく。「1℃で冷やして、作る時の温度は4℃です」

②ウイスキー(60cc)をグラスに注ぐ。
グラスにウイスキーを注ぐ

③ウィルキンソン190cc瓶を垂直に立て勢いよく一気に入れる。
炭酸水を注ぐ

④レモンピールをグラスの15cm斜め上からツイストする。「レモンピールは香り付け程度です」
レモンピールをツイストする

⑤完成!
完成したハイボール

ウイスキーがWなのでガツンとくる味わいですが、ほのかに香るレモンが爽やか。飲みやすい冷たさで最後まで味が変わることなく、おいしくいただきました! 

100年愛される、最後の一滴までおいしいハイボール。まずは「サンボア」でも長年使われてきた「サントリーウイスキー 角瓶」で。その後は好みのウイスキーで試してみてはいかがでしょうか。


■お店情報

「神戸サンボア」
兵庫県神戸市中央区加納町4-2-1 神戸阪急ビル「EKIZO神戸三宮」西館Bブロック海側1階
TEL 078-381-8179
営業時間 12:00~23:00(LO 22:30)
定休日 1月1日
https://www.samboa.co.jp/

※記事の情報は2022年12月29日時点のものです。
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