家飲み文化部④ 愛飲家必見「もっとお酒が好きになる名作映画」3選
お酒は長い歴史のある深い文化なだけに、製造の現場や愛好家たちの様子などが、映画でもしばしばテーマとなって取り上げられています。お酒のことを知ってその世界に浸るには、映画は格好の教材です。好きなお酒と一緒に楽しみたい、東西の注目作品をご紹介します。
ウイスキーの本場を映像で体感できる「天使の分け前」
スコットランドのグラスゴーで荒れた生活を送る若者がウイスキーと出会ってテイスティングの才能を開花させ、人生を立て直していくという物語です。
「天使の分け前」とは熟成期間中に樽から蒸発して失われていくウイスキーの成分のこと。主人公が人生一発逆転のためにとる行動は日本人的には理解できないという人も多くて賛否両論なのですが、一貫してイギリスの労働者を描き続けてきたケン・ローチ監督にとっては、この映画のオチは階級社会の英国における正当な「分け前」なのだということなのかもしれません。
劇中にウイスキー評論家として出演しているのは、世界的なウイスキー評論家チャーリー・マクリーン氏本人です。氏がモルトをどのように言葉に表現するか、試飲会やオークションにあつまる人々の雰囲気、そしてモルトを生み出すスコットランドのヒースの丘の景色、これらを存分に疑似体験させてくれるのが、ウイスキーファンにとっては嬉しい限りです。スコットランドの国民的清涼飲料水である「アイアン・ブルー」が、ストーリーを左右する重要な小道具として出てきます。
主人公のロビー(ポール・ブラニガン)が、エジンバラのウイスキー試飲会でブラインドテイスティングにチャレンジする場面。出題されたシングルモルトをひとくち飲んだロビーが、選択肢として銘柄を二つあげます。そのひとつがクラガンモア。花やハーブといった複雑なアロマが次々と顔を出してくると称される、華やかでウイスキーの楽しさに満ちたモルトです。映画でロビーは二者択一を正答しないのですが、本当は正解が判っているのに、試飲会の場の雰囲気を読んでわざと外したようにも見えます。
日本酒に魅せられた男たちを描く「カンパイ!世界が恋する日本酒」
外国人として日本で初の杜氏になり、他にない新しい酒を次々と生み出すイギリス人のフィリップ・ハーパー氏、海外に日本酒の魅力を伝える「日本酒伝導師」として活動するアメリカ人ジャーナリストのジョン・ゴントナー氏、そして岩手県の蔵元 南部美人の跡継ぎであり日本酒の魅力を世界に発信する久慈浩介氏。日本酒の魅力にとりつかれ、日本酒を仕事にした3人の男たちの日常を追ったドキュメンタリーです。
彼方の国でサッカーやアメリカンフットボールに明け暮れていた少年たちがいつしか日本に根を下ろす決意を固める。かたや岩手のやんちゃな野球少年は海外のホームステイ先で諭され実家の偉大さを思い知る。日本酒という文化がそれぞれの人生の行方を決断させたことに、感動を覚えずにはいられません。なかでも、秋冬は蔵に泊まり込みで暮らすというハーパー氏が母国語で静かに半生を語るシーンは、胸に迫るものがあります。
日本酒が知らず知らずのうちにグローバルな酒になっていることに、あらためて驚きます。そして3人の日本酒に対する熱い思いと独自の考えを聞いていると、日本酒に対する興味ががぜん湧き上がります。何よりも登場する人々が皆とても美味そうに酒を飲むので、見ているこちらもすぐに酒屋へ走りたい気持ちになってしまうのです。
フィリップ・ハーパー杜氏が率いる木下酒造が江戸時代の製法で造った「玉川 Time Machine 1712」は、日本酒なのに、ウイスキーのような色をしています。ひとくち含むと、あっっまあ〜い! まるでみりん(伝統製法で作られたもの)のような甘さで、でも焼酎で作るみりんとは明らかに違い、日本酒であることは確かで、優しくてとても複雑な甘みを持ったお酒です。どこかで聞いた「うまさとは昔は甘さのことだった」という言葉が思い出されます。アイスクリームにかけると素晴らしく美味しいと紹介されているので、今度やってみようと決めたのでした。
主人公たちと一緒にワイナリーを巡る「サイドウェイ」
2年前の離婚のショックからいまだに抜け出せない主人公のマイルス(ポール・ジアマッティ)とその親友ジャック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)の二人組が、ジャックの結婚を前に南カリフォルニアのワイナリー巡りに出かけるというロードムービー風のコメディ。コメディ部分は主にジャックが担当し、マイルスは中年男のダメっぷり、挫折と成長を悲哀たっぷりに演じています。
ワイナリー巡りでもレストランでも、2人はとにかく飲みまくります。その豪快な飲みっぷりを見ていると、やはりこちらもワインの栓を開けたくなってきます。マイルスたちが巡った地区の地図を眺めつつ、ワインを味わいながら観ると一層楽しい映画です。
この映画は大ヒットし、アカデミー賞の脚色賞とゴールデングローブ賞の作品賞も獲得。映画はアメリカのワイン業界に大きなインパクトを与えました。それまでナパ地区などに比べるとあまり有名でなかったサンタバーバラ郡のワイナリーが一気にメジャー化し、大挙して観光客が押し寄せるようになりました。主人公のマイルスが愛するピノ・ノワールのワインは品薄となり高騰。逆にマイルスがけなしたメルローは売れ行きがガタ落ちし、その回復には10年以上の時間を要したそうです。
ヒッチングポスト ピノ・ノワール”ハイライナー”サンタバーバラカウンティ[2014]。ヒロインのマヤ(ヴァージニア・マドセン)が働くステーキレストラン「ヒッチングポスト」のバーで、マイルスとジャックが飲むワインです。編集部の青田ソムリエによると「2014年はまだ若いように思いますが・・・・」ということなのですが、ワイン初心者の小欄担当にしてみたら、エレガントで繊細で、久しく飲んだことのないぐらいものすごく美味しいワインでした。いつかサンタバーバラでうまいステーキと一緒に飲んでみたいものですが、まずは映画を観ながら楽しみたいと思います。
※記事の情報は2018年7月5日時点のものです。
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