クラフトジンの先駆者『シップスミス』蒸溜所訪問レポート

ロンドンのジン巡りの2回目はシップスミス蒸溜所です。ロンドンのクラフトジンのパイオニアであり、常に魅力的なジンづくりにチャレンジし続けています。

メインビジュアル:クラフトジンの先駆者『シップスミス』蒸溜所訪問レポート

200年ぶりにジン製造免許を取得した『シップスミス』

かつてロンドンにたくさんあったジンの蒸溜所は、統廃合されたり拠点を移したりして、2000年頃にはビーフィーター蒸溜所しか残っていませんでした。そんななか2008年に200年ぶりに新たにジン製造のライセンスを取得し、クラフトジンメーカーを創業したのがシップスミス蒸溜所です。現在の蒸溜所はロンドンの中心部から地下鉄で30分ほどの住宅地にあります。  

この蒸溜所の3人の創業者たちは、アメリカのクラフトビールのムーブメントに刺激されて、18~19世紀のロンドン・ドライジンを復刻する事業へのチャレンジを決意したのでした。
シップスミス蒸留所
シップスミス蒸溜所の入り口。右側の白い窓枠のところが小さなショップになっている
元ガレージだった工場
奥に進むと元ガレージだった工場がある
奥に蒸溜所がある
中はこんな感じ。さらに奥に蒸溜所がある
創業者の3人
創業者の3人。ジンの蒸溜所免許の取得に奔走しながら、オリジナルのレシピの完成度を高めた。最初は自らバイクでジンを配達していたそう

『シップスミス』はワンショット

シップスミスが使用するボタニカルは10種類です。いずれもジンづくりで広く使われる素材です。新しい蒸溜所には、既存品と違いを際立たせるためにしばしば奇抜なボタニカルを用いますが、正統派のロンドン・ドライジンを目指すシップスミスの路線ではありません。  

シップスミスは、ボタニカルの種類や数ではなく、その配合と浸漬の仕方、蒸溜時のヘッドとテールのカットのタイミング、そしてワンショットという製法にこだわります。現在の一般的なロンドン・ドライジンは、再蒸留後にニュートラル・スピリッツと水を加えて製品化されています。これがマルチショット製法で、個性を主張しすぎないのでカクテルベースに使いやすく、かつリーズナブルな製品を提供できます。一方、ワンショットは再溜後に加水して度数調整するだけです。パンチのある濃厚な味わいのジンになります。
シップスミスの使うボタニカル10種類
シップスミスの使うボタニカル。ジュニパーベリー、コリアンダー、アンジェリカ、シナモンなど10種類
蒸溜器3基
現在使用している蒸溜器は3基。いずれも女性の名前がついている
ゲストハウスの壁で蒸溜液のヘッド、ハート、テールを図示
ゲストハウスの壁で蒸溜液のヘッド、ハート、テールを図示

『シップスミス』はストレートでおいしい

シップスミスというブランド名にも、こうした製品スタイルは影響しています。英語でシップには「味わいを感じながら飲む」という意味があり、従来のロンドン・ドライジンがカクテルで提供されることを前提にしていたのに対して、ストレートでそのまま啜るジンという意味合いが込められています。ちなみにスミスは職人・匠というニュアンスがあるそうです。

シップスミスは革新的で挑戦的

蒸溜所の案内してくれたグローバルブランド・アンバサダーのベンさんは、以前は蒸溜を担当し、今は実験的な酒の開発も兼任しています。  

ゲストを迎える銅製の天板をもった試飲カウンターの隣には実験室があり、常に新しい酒の開発にチャレンジしているのだそうです。いくつものサンプルをつくり3人の創業者に試してもらい、彼らのOKが出ると小さな蒸溜器での試作が許されます。こうしてつくられた試作品はシップスミスファンの一般会員に、2ヶ月に1度、プレゼントとして届けられますが、彼らから高く評価されると商品化を検討する仕組みになっています。シップスミスの常にイノベイティブかつクリエイティブであるべきという蒸溜所の理念が、こうしたところに生きていることを感じます。
アンバサダーのベンさんは元バーテンダー。慣れた手つきでウエルカムドリンクにジントニックをつくってくれた
アンバサダーのベンさんは元バーテンダー。慣れた手つきでウエルカムドリンクにジントニックをつくってくれた
試飲カウンターの傍に設けられた実験室
試飲カウンターの傍に設けられた実験室。ビーカーサイズの蒸溜器があった
メンバーに届けられるジンの試作品
メンバーに届けられるジンの試作品。評判がよければ商品化されることも
クラフトジンのパイオニアとして評価を確立したシップスミスですが、ベンさんは蒸溜器を大きくしたり、会社を大きくしたりすることはないと断言します。彼は、僕たちはいつまでもロンドンにこだわり、ひと目でクラフトディスティラリーだとわかるようにしていくのだ、と結びました。


※記事の情報は2019年11月14日時点のものです。
 

   

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