伊藤理佐『おいピータン!!』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑧》
「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は伊藤理佐さんの漫画『おいピータン!!』からの再現です。
食いしん坊のふとっちょサラリーマンが「今、うちにあるもの」で手早く作るおつまみ3品
◾あらすじ
実録系コミックエッセイもお色気ありのギャグ漫画もおまかせあれ! ヒット作多数の漫画家・伊藤理佐先生の代表的な作品の1つです。
主人公の“ピータン”(※)こと大森さんは、美味しいものが大好きなふとっちょサラリーマン。食い意地&食べっぷりは圧倒的ながら、人情に篤く優しい性格で部下からも慕われています。
※このあだ名は、大森さんが行きつけの居酒屋でしょっちゅうピータンを注文するため、ほかの客がこっそり裏でつけたものらしい。
彼女である同じ課の渡辺さんと付き合いだしたきっかけは、残業後に行ったおでん屋でオーダーの好みがぴたりと一致したこと。(いいなぁ、そんな恋の始まり。憧れますわ〜)
このピータンカップルを中心に、職場や近所の人たちが主人公になることもある1回完結オムニバス式の漫画です。食漫画というスタイルではないのですが、作者の伊藤理佐先生はご自身も公言しておられるお酒好き(そして絶対に食いしん坊)ゆえに、物語のあちこちに美味しそうな小ネタが転がっています。
ここで余談ですが、伊藤先生のご主人は同じく漫画家の吉田戦車先生。お二人がそれぞれ描いておられる実録育児漫画のなかには、自宅でおつまみを作って家飲みしている様子が散見されます。
私が好きなエピソードは、『まんが親』(吉田戦車著)で飲み会に出かけた伊藤先生が深夜になってもなかなか帰ってこないため、吉田先生が代わりに娘さんの通園弁当を作ったときの話。味付けがしょっぱくなったお惣菜をつまみに飲み始める吉田先生。朝帰りした伊藤先生がそれを見て「(私も)飲もうか!」と酔っ払い特有のノリで言い出すと、諌めるどころか「好きにしろ」と答えるやりとりが、いかにも呑兵衛同志の相身互いって感じで心にしみました。(いいなぁ、こんな結婚生活。憧れますわ〜)
余談おわり。
大森さんはラーメンや寿司やらの外食も大好きだけど、おうちでも美味しそうなものをいろいろと作っていて、それらには両先生の好みが反映されているように思えます。例えば、鶏の手羽先を煮ては冷ましを繰り返して作る鍋、渡辺さんの誕生日に仕込んだ大量のイクラ、残りもののパスタで作るオムレツなどなど。
今回はそんな中から「もしかしたら、実際に伊藤先生たちもこんなつまみで飲んだのかも」という3品をピックアップしました。
◾ここを再現
「なるべく“心の中の生産者さんや食材たち”に怒られないように」と、食材に礼を尽くすよう心するも、デート先のレストランでイマイチな鶏肉料理にあたってしまいます。“心の中の鶏”に「オレに塩もうひとふりだっちゅーねん!!」と怒られ、泣かれる二人。気を取り直して家飲みをすることになり、大森さんが冷蔵庫の在庫を使っておつまみを作るシーンがハイライトです。
「今、うちにあるもの」は、水煮たけのこ、賞味期限ギリギリのしらす、卵、ショウガ、ネギ、お豆腐半丁、明太子少し。これに豚ひき肉だけを買い足して作ったものがこちらです。
◾お品書き
- 豚ひき肉と水煮たけのこ、ネギ、ショウガを炒めて豆腐にのっけ
- じゃこ炒め山椒風味
- 明太子入り茶碗蒸し
【再現レシピ①】豚ひき肉と水煮たけのこ、ねぎ、生姜を炒めて豆腐にのっけ
作中では味付けに触れられていなかったので、中華っぽく仕上げてみようとオイスターソースを使いました。
◾食べてみた
あー、これめっちゃ好き。シャクシャクッとしたたけのこの水煮がいい仕事してくれています。ワンランクアップ感。オイスターソースはもちろん、めんつゆやカレー風味、サラダのドレッシングなんかで味付けしてもそれぞれに美味しそうです。
しかし大森さんは何を作るためにたけのこの水煮を買っていたのだろう。青椒肉絲かな、タイカレーかな。そんな想像をするのもまた楽しい。
【再現レシピ②】じゃこ炒め山椒風味
◾食べてみた
じゃこを使ったおつまみってじゃこおろしくらいしか思いつかなかったのですが、単体で炒めるってのもアリですね〜。塩気があるから山椒をふるだけでいいし、少しずつつまむ感じが箸休めにちょうどいい。ほんで噛むほどに味が出る出る。じゃこのサイズや乾燥の加減でまた違った味わいになりそうです。
伊藤先生、冷蔵庫の在庫では「しらす」、調理シーンでは「じゃこ」となっていますがどっちでもいいですよね!?(しらすは水分ありのふっくら、じゃこは干物っぽいイメージです。ちなみに今回はじゃこを使いました)
【再現レシピ③】明太子入り茶碗蒸し
私の作り方のポイントはこんな感じです。
・玉子1個に対してだし100cc(めんつゆやだし醤油使用)
・玉子液はざるで漉しておくと食感のなめらかさが段違い
・容器の半分だけラップで覆い、200Wなど弱めの設定で2分くらいずつ加熱
・途中で固まり具合を見てラップの位置を変えたり追加で加熱したりする
(写真のプリンカップサイズで、合計6分ほど加熱しました)
明太子は半分を玉子液の中に入れ、残りをトッピングしました。
◾食べてみた
マイルドな玉子とピリッと辛い明太子の相性のよさを再発見! 玉子焼きでも美味しい組み合わせですが、茶碗蒸しだとより繊細な口当たりになってこれまたいいものです。具が明太子だけなので生地と一体化して飲むように食べてしまう〜。
お酒を飲んでいるときにちょっと汁物がほしくなることってありますよね? そのときにもちょうどいい一品だと思います。
***
どこの家でも冷蔵庫にありそうなものでこんな気の利いたおつまみを作れる、大森さんのポテンシャルの高さに感服〜。そりゃみんな祝福したくなりますよね。
さて、二人はこの素敵なおつまみで何を飲んだのでしょうか(作中では描かれていない)。夏の話だったのでビールかな、それとも別の回で飲んでいた焼酎お湯割レモン入りかな。
人肌の温もりとスイートな雰囲気に飢えている私は黒糖焼酎のお湯割を合わせてみましたよ。美味しかったですよ。でもいつかはピータンカップルや伊藤・吉田両先生のような気の合う酒仲間……もとい、パートナーが欲しいですよ。
※記事の情報は2020年3月3日時点のものです。
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