「獺祭」の旭酒造が主宰の山田錦コンテスト、優勝賞金3000万を射止めたのは?

日本酒のための米といえば山田錦。「獺祭」を製造する旭酒造は、毎年、山田錦のコンテストを開催しています。優勝賞金はなんと3000万円。その狙いは最高の米で最高を超える酒をつくること。さて、今年、この栄冠を射止めたのは?

メインビジュアル:「獺祭」の旭酒造が主宰の山田錦コンテスト、優勝賞金3000万を射止めたのは?

NYサザビーズオークションで1本112万円

昨年の9月に著名なオークションハウス、ニューヨーク・サザビーズで日本酒が1本115万円で落札されました。旭酒造(山口県岩国市)がつくる『獺祭 最高を超える山田錦2021年度優勝米 DASSAI Beyond the Beyond 2022』(以下「獺祭Beyond2022』」です。落札したのはニューヨークに本店を構える”Sushi Nakazawa”でした。

この商品は、山田錦コンテストで2021年のグランプリを獲得した、岡山県の高田農産の山田錦から生まれたもので、23本限定で製造されました。ワインでは100万円を超えるものも珍しくありせんが、日本酒がこれだけ高価で取引されるのは稀有です。
115万円で落札された『獺祭 Beyond 2022』
115万円で落札された『獺祭 Beyond 2022』
同じ醸造酒でありながら、なぜ日本酒とワインの価格はこんなに違うのか? どうしたら日本酒の価値をワインと比肩するところまで引き上げられるのか? このように考えた酒蔵は少なくありませんが、日本酒の価値向上のための取り組みを本気で続ける蔵元はわずかで、その筆頭が旭酒造です。

同社が進める「最高を超える山田錦プロジェクト」は、山田錦のコンテストを主催し原料の米の品質を高め、最高の山田錦で最高を超える酒をつくることを狙っています。

長距離移動に向かないブドウでつくられるワインは、ワイナリーがブドウ畑に隣接しており、最高級品は限られた土地から生まれる最高のブドウから生まれます。一方、米は適切に管理すれば長距離の移動で劣化することはありません。良質な米が生まれる産地から米を調達する仕組みは、酒の質を上げようとするなかで必然として生まれたものです。大麦を原料とするビールも同様で、高品質な麦芽が世界中を行き交っています。

山田錦のコンテストには全国各地の90の農家から出品があり、彼らが手塩にかけた自慢の山田錦が集まりました。これを専門家が吟味し、最高を超える酒づくりに相応しいものを選びます。
『獺祭Byond』を実際に販売したレストランやショップの関係者
『獺祭Byond』を実際に販売したレストランやショップの関係者。「最高を超える山田錦プロジェクト2022」のために。ドバイ、ロンドン、ラスベガス、ニューヨークから来日した

審査基準を「心白」が小さく中心にあることに変更

「最高を超える山田錦プロジェクト2022」発表会は1月17日に東京の帝国ホテルで開催されました。冒頭に桜井一宏社長は、2022年は審査基準を変更して2回目、基準変更を告知して初めてのコンテストだと説明しました。一昨年の審査会で審査基準をそれまでの「心白が大きいこと」を「心白が小さくて中心にあり精米のしやすいもの」に変更して選考し、今回は栽培農家が新しい選考基準を知ったうえで目指した山田錦が集まりました。

日本酒に詳しい人ならこの基準変更に違和感を持つ方が多いでことでしょう。良質な山田錦はこれまで大粒で心白が大きく中心にあるものとされてきました。このコンテストも2020年までそうした基準でおこなわれましたが、変更した理由を桜井社長は、心拍は柔らかいので大きいと高精白できず割れてしまう、旭酒造は手を惜しまず高精米できる米を求めていくと説明しました。
出品された90点のなかから36点が決勝審査に進出
出品された90点のなかから36点が決勝審査に進出

『獺祭 未来へ 農家と共に』がサステナビリティ賞を受賞

最高の山田錦を選りすぐる一方で、旭酒造は等外米の活用にも取り組んできました。米は粒が小さいなどの理由で品質基準を満たさないと「等外」とされます。等外となった米を使用した酒は、吟醸酒や純米酒などの名称を使うことができないため、酒蔵は使いたがらず、価格はグンと下がります。山田錦は上手につくっても約1割は等外となってしまうため、栽培農家にとって等外米は手間暇を掛けたにもかかわらず高値で買ってもらえない親不孝者、圃場あたりの収入を下げる存在でした。

旭酒造はかつて等外米を使った『獺祭 等外』を、リーズナブルなセカンドラベル的に発売したこともありました。ですが、付加価値の高い商品でなければ農家の収入増につながりません。これを終売する一方で、等外米には心白がなく高精白できる点に着目し、よりおいしい酒の開発に取り組みます。こうして誕生したのが精米歩合8%まで磨きあげた『獺祭 未来へ 農家と共に』です。

この成功が山田錦コンテストでの審査基準の変更とも繋がっているのでしょう。旭酒造は従来から“高精白による酒質の向上”を追いかけてきました。『獺祭 未来へ 農家と共に』の開発を通じて、明確に“重要なのは心白ではなくより磨けること”と確信したのだと思います。

そして、この商品は、在日フランス商工会議所が主催するフレンチビジネスアワード 2023で「サステナビリティアワード」を受賞しました。「一粒の米も無駄にしたくない、そのうえでおいしいお酒でないと意味がない」という思い、また、米の生産者あっての酒蔵であり共に支え合って前に進んでいくという行動基準が評価されたと報じられています。
「サステナビリティアワード」を受賞
この賞はフランスや日本と取引のある企業で、「2021年及び 2022年に日本国内のサステナビリティのためのプログラムを発展させ、力強いアクションを起こした企業」に贈られる
『獺祭 未来へ 農家と共に』(720ml)は16,500円(税込み)
『獺祭 未来へ 農家と共に』(720ml)は16,500円(税込み)

さて、「最高を超える山田錦プロジェクト2022」の審査項目はつぎの6つです。

① 粒がそろっているか
② 心白が中心にあるか
③ 心白がより小さいか
④ ツヤがあるか
⑤ 被害粒(病気にかかっているもの)がないか
⑥ 通常のお米に比べて茶色や緑色に着色しているものがいかに少ないか

最終候補に残ったのは8点で、この中から準グランプリ(賞金1000万円)とグランプリ(賞金3000万円)が決まります。これまでグランプリは、栃木県(準グランプリ兵庫県)、福岡県(〃栃木県)、岡山県(〃兵庫県)と続いています。

新基準が示され栽培時からそれを目指した初の山田錦のコンテストでグランプリを受賞したのは、「農事組合法人 水穂やまだ(熊本県)」でした。名前が発表されるとテーブルから声があがり、登壇した中西洋介さんは満面の笑み。山田錦の栽培には7年前から取り組んでいるそうで、今期は「春先の水不足で苦労したが、(稲を)倒さないように心掛けた」と振り返りました。

この最高の山田錦から、次はどんな「獺祭」が生まれるのか期待しましょう。
スクリーンに「水穂やまだ」の名前が出て会場がどよめいた
スクリーンに「水穂やまだ」の名前が出て会場がどよめいた
グランプリの水穂やまだ(熊本県)と準グランプリの下八木営農組合(滋賀県)
グランプリの水穂やまだ(熊本県)と準グランプリの下八木営農組合(滋賀県)

※記事の情報は2023年2月2日時点のものです。

  

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

さけ通信ロゴ
  • 1現在のページ