清水義範『12皿の特別料理』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊹》

清水義範先生の『12皿の特別料理』より、タラモサラダをオーブントースターで焼く「タラモ焼き」を再現! 熱々のタラモ焼きと冷たい白ワインの相性はもちろん…? 家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:清水義範『12皿の特別料理』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊹》

12皿の料理にまつわるさまざまな人間模様を描いた短編集。

◾こんな本です

『12皿の特別料理』 清水 義範 KADOKAWA/角川文庫
※現在は電子書籍のみ発売中 

画像をクリックすると角川文庫のページにジャンプします。

インドで交通事故にあった夫の願いを叶えるために現地入りした妻が苦難を乗り越えて作る「おにぎり」、東京育ちの妻と名古屋育ちの夫という新婚夫婦が食文化の違いを実感していく「きんぴら」、リタイア後の老人が夢中になった漬物作りを通して孫娘との新たな関係を築く「ぬか漬け」など、12品の料理をテーマにさまざまな人間模様を描いた短編集。

全編に渡ってかなり細かいレシピや工程がしっかりと記されていて、レシピ本としても活用できる「一冊で二度おいしい」作品です。

パスティーシュ(作風の模倣)小説の旗手として知られる清水義範先生は、バラエティに富んだ文体、切り口で読者を惹き込む天才です。

私が清水先生の作品を初めて読んだのは中学生の時。『永遠のジャック&ベティ』でした。「英語の教科書で『私は少年です』『私は少女です』と自己紹介し合ったジャック&ベティが50歳になって再会したらどんな会話を交わすのか」というテーマからしてもうおかしい。

「あなたはベティですか」
「はい。私はベティです」

から始まるあの頃のようなトンチキな会話で、会わなかった30数年間を語り合う二人。その内容はなかなかにハードで当時は意味がわからない部分もあったけれど、とにかくおかしくて面白くて声を上げて笑いながら読んだものです。

今回久しぶりに再読してみても面白さは変わらず、私が大人になった分だけ笑える部分も増えていました。こちらも短編集なので、晩酌のお供にも軽く読めておすすめです。

『12皿の特別料理』を読み、清水先生は文章だけではなく料理の腕も相当にテクニカルで、知識や経験も驚くほど豊富とお見受けしました。

例えば、パパの料理が好きな幼い娘のために鯛素麺を作るお話の中の一節はこんなあんばい。
しかし、鯛を下準備するのはちょっと大変かもしれない。
(中略)
 ウロコを取ったら、料理嫌いの人には最大の難関の腸わた取り。鯛のあご(?)の下から肛門まで切り裂いて、中のごちゃごちゃを庖丁で、エイヤッ、とかき出して、よく水で洗う。その時、うまくちぎれない腸やその他気味悪いものがぶら下がったりすると、慣れない人はゾッとして退却したくなっちゃうけど、その場合の素人向け作戦としては、調理用のはさみを使うのがよろしい。
(中略)
 肉の中までよく焼けるように、切られの与三郎のような切り傷を鯛の身につけておく(飾り庖丁)のだが、あまり深く切れ目を入れておくと、焼いたあと、パラバラになってしまうので浅くでよろしい。
(中略)
 尾ビレや胸ビレには塩をたっぷり振りかけ、焼いた時にヒレが灰になってしまうのを防ぐ(飾り塩)のだが、男の料理ですから、その辺は省略してもよろしい。

清水義範 /『12皿の特別料理』「鯛素麺」(角川文庫)より
長い引用ですんません!

でも、この描写は絶対に料理に慣れた人ならではのものだと思いませんか?

事実、林 政明氏による巻末の解説には「伝え聞くところによると、料理助手歴20年だという。もちろん先生は奥さんとのこと」という一文がありました。

この短編集に出てくる料理も、実際にご家庭で奥様と一緒に作ってこられたものが土台になっているのかもしれませんね。

『12皿の特別料理』ここを再現

今回は、12品の中から「鱈のプロバンス風」という一編に出てくる「タラモ焼き」を再現しました。

離婚後に元夫から「あのレシピを教えてくれ」と頼まれ、新婚時代によく作った料理を思い出す主人公の喜世美。彼らが「鱈のプロバンス風」とセットにして「鱈の親子揃い」と呼んでいた一品が「タラモ焼き」。失敗してしまったタラモサラダを焼いてみたらおいしかったというのが始まりで、後に改めてレシピを完成させたのだそう。
 

◾お品書き

  • タラモ焼き
タラモ焼き

【12皿の特別料理再現レシピ】タラモ焼き

<材料>
・じゃが芋
・生たらこ(皮をとってほぐしておく)
・バター
・マヨネーズ
・コショウ(お好みで)
・レモン汁

分量のご参考までに、作中ではこのように書かれていました。
一人分にじゃが芋一個、二人前でタラコ半腹、といったところであろう。マヨネーズは一人分大さじ一杯くらい、バターは好みで適当に。

清水義範 /『12皿の特別料理』「鱈のプロバンス風」(角川文庫)より
<作り方> 
① じゃが芋を茹でる。フォークの背で押せばつぶれるほどになればOK。
② じゃが芋が冷める前に生たらこ、バター、マヨネーズを加えてフォークでじゃが芋をつぶしながら混ぜる。最後にレモン汁も加える。←ここで止めると「タラモサラダ」になります。
③ 耐熱皿にバターをぬり、その上に②を盛る。※表面は平らにしてしまわず、粗っぽく凸凹にしておいた方が焦げ目がまだらについてうまい、とのこと。
④ オーブンかオーブントースターでところどころに焦げ目がつくまで焼く。
 
マヨネーズがうまく作用して、非常にさくさくした歯ざわりになる。さくさくで、タラコの塩味がほんのりきいて、ケーキのようでもあり、おかずのようでもあり、というオードブルになる。サラダのために用意したレタスはそのまま使えて、そえて共に食べると大変具合がよい。
 その後喜世美は、その料理のパーティー・バージョンも考案した。作り方は同じなのだが、耐熱皿を使って大きく焼くのではなく、小さなケーキを作る時のためのアルミのミニカップに入れて焼くのだ。

清水義範 /『12皿の特別料理』「鱈のプロバンス風」(角川文庫)より
■食べてみました
たらこの量を作中の倍、バターはじゃが芋3個に対して30gほどとたっぷり加えてデブ仕様に作ってみました。

う、う、うんまーーい!

どうあってもおいしい組み合わせなのはわかっていましたが、サラダの段階で味見した時よりも、焼いた方が明らかに味上がりするんですよ。“手間をかけた料理感”が出るというか。 確かにこれならパーティのおつまみにも喜ばれますね。
 
タラモ焼きアップ
熱々ホクホクのタラモ焼きと冷え冷えの白ワイン、めっちゃ合いました!

***

半量ほどが残ったので、次はチーズをのせてグラタン風にしてみました。

はい、これも間違いないーーー。

ワイン泥棒がまた来たーーー。

みなさまもお試しになる際はぜひ多めにお作り置きの上、カロリー上乗せアレンジまで含めてご賞味されますように。何卒。

※記事の情報は2023年6月6日時点のものです。
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