原田ひ香『ランチ酒 おかわり日和』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊽》

原田ひ香先生の『ランチ酒 おかわり日和』より、焼き鳥丼とキュウリの漬け物を再現! ビールも用意して、夜勤明けの主人公のお腹と心を癒したあの味をいただきます。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:原田ひ香『ランチ酒 おかわり日和』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊽》

特殊な“夜勤”明けの昼酒とチョイスが絶妙なランチメニューに垂涎、また垂涎。

◾こんな本です

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ベストセラー小説『三千円の使いかた』で知られる原田ひ香先生は、『まずはこれ食べて』『古本食堂』『三人屋』など、食をテーマに含んだお話も多く手がけられています。その中でも、特に私が好きなのはこの『ランチ酒』シリーズ。

『ランチ酒 おかわり日和』はシリーズ1冊目『ランチ酒』の続編で、できれば前作から続けて読んでいただきたい、ちょっと変わったぐいぐい引き込まれるストーリーになっています。

主人公・祥子の職業は、夜から朝にかけてが勤務時間となる「見守り屋」。聞きなれない仕事ですよね。それもそのはず、これを考えたのは祥子の同級生で「見守り屋」社長の亀山だったのでした。元々はなんでも屋的な業態だったところ、思いつきで「夜から朝まで見守ります」と謳ってみたら思いがけず依頼が増えていったようです。

見守る相手は、親が夜を一緒に過ごせない子供から、認知症が始まった高齢の女性や酔った自分の悪癖を告白することを黙って聞いてほしい漫画家、娘が巣立って「一人の夜が怖い」というシングルマザー、ネットで中傷されてスマホ中毒になってしまった女子大生などなど、実にさまざま。

仕事相手という線引きをしつつも、時にはそれを超えるほど親身になって向き合う祥子。 そんな彼女自身も、実は離婚して一人娘を元夫と義両親の元へ置いてきてしまったという心の傷を負っていて…。さらには亀山のとある依頼をきっかけに知り合った男性にいつしか惹かれ始めたりして…。

そんな祥子のライフワークともいえるお楽しみが、仕事明けの「ランチ酒」。離れて暮らす小学生の娘や、昔馴染みの雇い主、ワケありの依頼者たちなどとのちょっと(!?)ややこしい人間関係の中で、自分をゴキゲンにしてあげられる術としてランチ酒を楽しむ祥子は、とてもカッコいいです。

なんでも、「犬森祥子には、ランチの店を選ぶ、明確な基準がある」そうで、その基準とは「酒に合うか合わぬかだ」とのこと。ひょー! かっこいい! 惚れるぅぅぅ!

いつでもダラダラと昼酒をやってしまえる自堕落なフリー人間の私とは違って、きっちり働いた人だけが感じられる夜勤明けの一杯の尊さ、おいしさ。眩し過ぎます。

しかも祥子のランチ酒が魅力的なのは、我々が昼酒の場として安易に思いつく居酒屋や立ち飲み屋、ファミレスなどに限らず、カフェやラーメン屋からエスニック料理店、寿司屋、鰻屋といったジャンルレスな店&メニュー選びをしているところ。

1冊目の『ランチ酒』では肉丼と芋焼酎のロック、バクテーとタイガービール、チキン南蛮丼とハイボールなどを堪能する祥子の様子に何度涎を飲み込んだことか。

そしてその続編である本作では、角煮丼、スパゲティーグラタン、サンドイッチ、焼肉、豚骨ラーメンなどが選ばれています。どんなお酒を合わせるのかも気になるところですよね。ぜひ、ご自分の目で確かめてみてください。

『ランチ酒 おかわり日和』ここを再現

今回再現したのは、焼き鳥丼。表参道で仕事を終えた祥子はぎっしりと並ぶ飲食店を横目に、「今、本当に食べたいものを探したい」と頭の中を検索し、「焼き鳥丼だ」と答えを出します。そこでテキトーにならない祥子さん、大好き!

スマートフォンで検索してたどり着いた店はかなりの人気店だったようで、カウンターの最後の一席に滑り込めた祥子は焼き鳥丼を注文した後で「昼はアルコールを出さない店だったらどうしよう」と焦るも、無事に生ビールを頼めて読んでいる私までホッとしました。

そしていよいよ焼き鳥丼が到着。
――うわー、大きい。どんぶりも、鶏肉の一つ一つも全部大きい。
焼き鳥は串がすでに抜いてあるから食べやすそうだ。ねぎま、鶏とシシトウ、ささみわさび、レバー、小さめのつくね。肉とご飯の間には刻み海苔が敷いてある。どんぶりの底が浅いので、見た目ほどご飯は多くない。たれがご飯全体にかかっているが、でも、かけ過ぎてはいない。甘辛いたれが染みているところと、白いところが、ほどよく混ざっている。

原田ひ香 /『ランチ酒 おかわり日和』(祥伝社)[第一酒 表参道 焼き鳥丼]より
うう、おいしそう。考えてみたら、これまでの人生で焼き鳥の単品ではなく丼でビールを飲んだことってないかも? そう気づいたら、「これを再現せずにいられない!」と強く思っている自分がいました。

そして祥子は食べ始めます。
一番に、まずシシトウの脇の肉を一切れ箸でつまむ。一口ではとても食べきれない、大きな鶏。噛みしめると、肉のうまさが口に広がる。しっかりした歯ごたえの肉だった。
――これはおいしいなあ。本当にこの店にして良かった。
そして、ビールを一口。合わないわけがない。

原田ひ香 /『ランチ酒 おかわり日和』(祥伝社)[第一酒 表参道 焼き鳥丼]より
合わないわけがない。でしょうね、そうでしょうね。あー、たまらん。

ところで、この小説の各章のタイトルは「地名 料理名」という構成になっていて、店名は出ていませんがおそらくどれもが実在するお店なのだと思います。舞台は主に東京、そして時々大阪、ちょっと静岡。関西在住の私でも「これはきっと、あの店だ」と気づいたので、東京にお住まいの方は解明して聖地巡礼的にも楽しめるのかもしれませんね。うらやましいです。

「表参道 焼き鳥丼」で検索すればこの店も出てくるのでしょうが、あえて調べずに小説の描写だけを元に再現してみました。初めは焼き鳥店でテイクアウトするつもりでしたが、謎のやる気が湧いてきて自作にチャレンジ!(ただし、手抜きバージョン)

祥子さん、いかがでしょうか。 
 

◾お品書き

  • 焼き鳥丼(ねぎま、鶏とシシトウ、ささみわさび、レバー、つくね)
  • キュウリの漬け物

【ランチ酒 おかわり日和再現レシピ】焼き鳥丼&キュウリの漬け物

焼き鳥丼&キュウリの漬け物
<材料>
・鶏モモ肉(ひと口大にカットし、酒と薄めの塩をまぶしておく)
・ささみ(売り切れだったので胸肉で代用。モモ肉同様に下準備をする)
・レバー(ひと口大にカットし、氷水と流水で血抜きをしておく)
・つくね(でき合いを使用。先に茹でておく)
・白ネギ
・シシトウ
・焼き鳥のたれ
・わさび
・ご飯
・海苔

<作り方>
「ささみわさび」以外は、先にフライパンで素材を焼いてたれを絡めてから串刺しにして、最後に卓上焼き鳥器で軽く焼いています。卓上焼き鳥器をお持ちでない場合が多いと思うので、フライパンのち魚焼きグリルで、生肉状態から魚焼きグリルで、などとお好きなようにどうぞ。もちろん、市販品やテイクアウトだと温めるだけなのでとっても簡単です!
シリコンはけでたれを塗り卓上焼き鳥器で焼く
100均で買ってきたシリコンはけでたれを塗り、職人気分を味わいました〜

「ささみわさび」はフライパンのごく弱火で蒸し焼きのようにしてから卓上焼き鳥器で焼き、最後にわさびをあしらいました。
焼鳥各種
私が! この焼き鳥を! 焼きました!(限りなく手抜きをして)

■食べてみました
全部の焼き鳥を串から外して乗っけたらご飯が見えないほどのボリュームになりました。 本家はどんなふうに盛り付けてあるのか気になってしょうがなかったけど、検索はグッと我慢。

祥子と同じように、思い切ってでっかく切ったモモ肉からいただきます。フライパン焼きというハンデはありつつ、ジューシーさと適度な香ばしさがあってうまし。シシトウを焼き鳥に合わせるのってあまり見たことがなかったのですが、とても合いますね。1本すんごい当たりがあって辛さを乗り切るのにもご飯が活躍してくれました。

甘辛いたれがまだらに染みたご飯、しかも海苔まぶし。これはちゃんとちゃんとアテになりますなぁ。むふふ。
盛り付けアップ
後で“追いたれ”なんかもしちゃいました

ご飯ものでビールを飲むのになんら抵抗のない私が、今までこの焼き鳥丼とビールの相性の良さを見過ごしてきたかと思うと、地面を叩いて咽び泣きたいほど悔しいです。それくらい、見事なナイスマッチングでした。もう、祥子先輩と呼びたい。
ささみがまたいい。塩焼きにたっぷりのわさび、味が変わって、また食が進む。焼き鳥、ビール、ささみ、また、焼き鳥、ビール、合間に甘いご飯、さらにさらにビール。どこをどう切り取っても、満足できる。

原田ひ香 /『ランチ酒 おかわり日和』(祥伝社)[第一酒 表参道 焼き鳥丼]より
そうそう、たれ陣のなかで清げな佇まいを見せていたささみちゃん(正確にはうちのは胸肉ちゃんですが)。ほんのり塩味にわさびがツーンと効いて、本当にいいアクセントでした。

あと、キュウリの漬物。これも箸休めにちょうどよかったです。私は乱切りにして顆粒鶏ガラスープの素で揉み込んだだけでしたが、こんな適当自作でも、買ってきたものでも、ぜひ添えていただきたい小さなひと皿でした。

***

手抜きバージョンとはいえ、なかなかに大変だった自作焼き鳥丼。ペロリと完食し、ビールも進みまくって大満足です!

そして、最後になりますが、実はこのシリーズは『ランチ酒 今日もまんぷく』という3冊目も発刊されています。祥子の行く末や次なるランチ酒の中身が気になりつつも、自分におあずけ状態でまだ読んでいないため今回の記事では触れておりません。ご了承くださいませ。そしてもしすでに読了された方が周りにいても、どうか私にネタバレしないよう心からお願いいたします。(言うてる間に読めば、という話ですよね。すんません!)

※記事の情報は2023年10月17日時点のものです。
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