高級ワイン産地を訪ねるイタリアの日帰りツアー体験記

イタリアを代表する高級ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」の産地は、なだらかな丘陵が広がる世界遺産のオルチャ渓谷にあります。トスカーナの州都・フィレンツェからの日帰りツアーで、モンテプルチアーノ、ピエンツァ、モンタルチーノの3つの町を訪ねました。

メインビジュアル:高級ワイン産地を訪ねるイタリアの日帰りツアー体験記

ツアー前日はフィレンツェで腹ごしらえ

中部イタリアのフィレンツェは、ルネサンス期にレオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロが活躍、歴史的建造物や文化遺産が豊富で観光都市としても人気の街です。

オルチャ渓谷へのツアーの出発は午前8時。前日の午後にフィレンツェに入り、街を歩いてみました。

中心部から少し離れた広場で開催されていたクリスマス・マーケットは、クリスマスや新年向けの飾りや食品を販売する売店がたくさん並び、ホットチョコレートの甘い香りが漂います。そして定番のホットワイン。日が陰り始める頃、暖を求めてつい手が伸びます。大きな寸胴鍋で温めたワインを、お玉で紙コップに汲んでもらいます。八角やシナモンが香り、思ったほど甘くなく、温まりました。
フィレンツェの象徴サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂
フィレンツェの象徴「サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂」
トスカーナ州はイタリア中部に位置する
トスカーナ州はイタリア中部に位置する。ツアーではオルチャ渓谷のモンテプルチアーノ、ピエンツァ、モンタルチーノの3つの町を訪ねる

クリスマス向けの飾りや食材を売る店が並ぶ
クリスマス向けの飾りや食材を売る店が並ぶ

大きな寸胴鍋でホットワインを販売
大きな寸胴鍋でホットワインを販売

夕食は中央市場の2階のフードコートで。肉、魚、パスタ、サラダなど専門店が軒を連ね、その場で料理を受け取って自分でテーブル席に運びます。名物のTボーンステーキの厚さは大人の男性の指4本分、一人では到底食べ切れません。小さめのポークソテーと地元のクラフトビールで英気を養いました。
中央市場の2階は巨大なフードコート
中央市場の2階は巨大なフードコート

最初の訪問地・モンテプルチアーノ

ツアーの集合場所はフィレンツェ駅のキオスクの前、事務所も看板もありません。時間に行くとバインダーを手にした男性が立っていました。参加者は5人、オーストラリアから2名、ロシアとドミニカから1名ずつです。12月の平日なので少ないのだと思いますが、5人の客に運転手とアシスタントが付いて、約1.5万円のツアー代はとてもお買い得。催行してもらえてありがたかったです。

ミニバンに乗り込み高速道路を走ること1時間半。10時には最初の訪問地・モンテプルチアーノに到着しました。今回の訪問先はこのほかにピエンツァとモンタルチーノの計3ヶ所。すべて標高500mを超える山の頂に町がある城塞都市です。麓にはなだらかな丘が広がり、道路沿いには細い糸杉の並木が続きます。ピエンツァからモンタルチーノにかけてはオルチャ渓谷と呼ばれ、古くから美しい景観を維持してきた地域として2004年に世界遺産に登録されました。
モンテプルチアーノは麓になだらかな丘陵が広がる
モンテプルチアーノは麓になだらかな丘陵が広がる

町の中心にある教会前の広場ではクリスマス・マーケットが開催されていて、生産者が生ハムやチーズを並べています。

45分の自由見学の後は、広場から歩いて数分のところにあるワイナリーを訪問。試飲ルームを備えたショップと醸造所、そして貯酒庫で、ブドウ畑は麓にあります。「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」というワインの産地で、日本ではあまり知られていませんが、バローロやモンタルチーノと同時期にDOCG*として認定された銘醸地です。ブドウはサンジョベーゼ種主体の、ほどよい渋味の上品な味わいです。テイスティングは2012年からヴィンテージの異なるものを3点、チーズやサラミとともに試します。

*Denominazione di Origine Controllata e Garantitaの略。イタリアワインの格付けにおいて最上位の等級産地

おもしろいのはワイナリーが皆、オリーブオイルをつくっていること。ここでは昔から畑にブドウとオリーブを混植しています。
観光客でにぎわうモンテプルチアーノのクリスマス・マーケット
観光客でにぎわうモンテプルチアーノのクリスマス・マーケット

マーケットにはチーズやハムの生産者の店がたくさん並ぶ
マーケットにはチーズやハムの生産者の店がたくさん並ぶ

大きな樽での貯蔵はイタリアワインの伝統
大きな樽での貯蔵はイタリアワインの伝統

オリーブオイルとワインを試飲
オリーブオイルとワインを試飲

生産者の説明を聞きながらの試飲は至福
生産者の説明を聞きながらの試飲は至福。「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」を堪能した

ペコリーノチーズの町・ピエンツァ

ピエンツァ旧市街は、オルチャ渓谷が登録されるより前、1996年に世界遺産になりました。ローマ法王ピウス二世(在位:1458年 - 1464年)の生まれ故郷のこの街を「理想の街」にしようと改造を進めたのですが、完成を前に亡くなったため計画がとん挫。その後は表舞台に立つことはなく、当時の景観がそのまま残りました。
ピエンツァの周りには糸杉がたくさん
ピエンツァの周りには糸杉がたくさん

正門からの目抜き通りに商店が並ぶ。特産のペコリーノチーズ
正門からの目抜き通りに商店が並ぶ。特産のペコリーノチーズはうま味が深く癖がなく食べやすい

ツアーは町のメインゲートで集合時間を確認して、自由行動になりました。観光の町だけあって目抜き通りには小奇麗なショップが並んでいます。そのなかにぽつぽつあるワインショップに入ってみました。壁一面に陳列されたワインはどれも立ててあります。日本円で7000円くらいのものも寝かせてもいないし、セラーで保管もしていない様子。

高価なワインを有料で試飲できるよう専用のマシンが置かれていたので、ブルネッロ・ディ・モンタルチーノを約500円で試飲してみると、これがとてもおいしい。ですが、ボトルでのお値段は8000円とのことで触手が動かず、近いタイプだとすすめられた2500円くらいの「ロッソ・ディ・モンタルチーノ」を購入しました。先ほどの「ヴィーノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ」に続いて本日2本目のお買いもの。
目抜き通りにはワインやチーズのショップが多い
目抜き通りにはワインやチーズのショップが多い

棚のワインはほとんどそのまま立てて陳列。店の奥に有料のテイスティングマシンがあった
棚のワインはほとんどそのまま立てて陳列。店の奥に有料のテイスティングマシンがあった

ちなみにピエンツァもワインショップが多いと感じましたが、この後で訪ねるモンタルチーノにはさらにたくさんありました。目抜き通りは300mほどの間に20店以上、こんなにあって商売が成り立つのかと思うほどです。そのほかに見学者を受け入れ直販するワイナリーがあります。きっとローマやフィレンツェなど都市部から、観光がてら車でワインを買いに来る方が相当数いるのではないでしょうか。

そしてこの町で有名なのはペコリーノチーズです。原料は羊の乳。山岳地帯のこの地域で放牧された羊は、他所から調達した飼料ではなくこの土地の牧草を食べて育ちます。だから乳はこの土地ならではの味で、当然チーズにも反映されます。○○産といっても輸入飼料を与えて畜舎で育てたのでは、その土地ならではの味にはなりません。ショップもあちこちにあり、現地では安価なのでお土産としても人気のようでした。

調子に乗って買うと荷物がかなり重くなります。すでに今日はワインを2本、オリーブオイルを1本買っているので、自重して中くらいのものを2個だけで我慢です。
この地方ではブドウとオリーブを混植する
この地方ではブドウとオリーブを混植する

モンタルチーノの極上ワイン

最後の訪問地はモンタルチーノです。イタリア屈指の高級ワイン「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」の産地ですが、1980年頃までは生産量が少なく海外ではあまり知られていませんでした。徐々に生産量を増やし、ワイン観光にも積極的に取り組み始めると、1999年にはアメリカのワイン専門誌『ワイン・スペクテーター』が20世紀のワイン・ベスト12にこのワインを選出、2006年には世界一位の評価を与え、世界中から観光客が訪れるようになりました。

「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」は、厳しい生産規定が設けられています。モンタルチーノ地区で生産・瓶詰されるだけでなく、1ヘクタール当たり最大収穫量8トン以下に抑えたブルネッロ種(サンジョベーゼ種の一種)を用いて、最低4年間の熟成を経て初めて出荷されます。味わいは豊潤で凝縮感があり舌触りは滑らか、ワインに詳しい方でなくとも上等なものだとわかります。

ツアーはモンタルチーノの市街地で1時間の自由行動、雨が降り出したこともあり参加者は皆、町の入口近くにある城塞跡に向かいました。中にはワインの試飲ができるショップがあり、塔に登って町を上から眺めることもできます(有料)。小さな町なので1時間あれば十分でしたが、寒さと雨で景色をゆっくり楽しめなかったのは残念でした。
難攻不落のモンタルチーノを象徴する城塞
難攻不落のモンタルチーノを象徴する城塞

この後、アバディア・アルデンガ(Abbadia Ardenga)というワイナリーを訪ねます。山頂の町から麓に降りぶどう畑が広がる道を、車は10分も走ったでしょうか。代々続く家族経営のワイナリーには、スロヴォニアオークの大樽が並んでいます。昔ながらのイタリアのワイナリーらしい景色です。また驚いたことに古いボトルが並ぶセラーには、自社だけでなくバローロやバルバレスコなどイタリアの銘醸ワインの年代物がコレクションされていました。研究熱心なオーナーが他所のワインも試しているのでしょう。

壁にかけられた古い写真は、このワイナリーの昔のブドウの収穫風景です。皆、長袖のシャツを着て、女性のスカートは足首まであります。オーナーは「服装は変わったけれど、今も変わらず手で収穫する」と説明しました。
アバディア・アルデンガ社の昔のブドウの収穫風景
アバディア・アルデンガ社の昔のブドウの収穫風景

オーナーのワインコレクションは圧巻
オーナーのワインコレクションは圧巻

オーナー自らがワインを注いでくれた
オーナー自らがワインを注いでくれた

ウエルカムドリンクではロゼが振る舞われた
ウエルカムドリンクではロゼが振る舞われた

フィレンツェから片道2時間近くかかる移動で、3都市を駆け足で巡るツアーでしたが、どの町も魅力的で飽きません。天気に恵まれれば、必ず心地よいツアーになります。

※記事の情報は2023年10月19日時点のものです。

 

『さけ通信』は「元気に飲む! 愉快に遊ぶ酒マガジン」です。お酒が大好きなあなたに、酒のレパートリーを広げる遊び方、ホームパーティを盛りあげるひと工夫、出かけたくなる酒スポット、体にやさしいお酒との付き合い方などをお伝えしていきます。発行するのは酒文化研究所(1991年創業)。ハッピーなお酒のあり方を発信し続ける、独立の民間の酒専門の研究所です。

さけ通信ロゴ
  • 1現在のページ