ジャパニーズウイスキー「KANOSUKE」本格始動
「メローコヅル」や「さつま小鶴」を造る小正醸造(鹿児島県)がウイスキー製造に乗り出してから7年。今春、念願のだった自社の焼酎蔵で製造したグレーンウイスキーを使った、独自性の高いブレンデッドウイスキーを発売しました。商品をはじめ小正醸造の新しい取り組みもご紹介します。
3基の蒸留釜から生れたシングルモルト
通常のモルトウイスキー(原料にモルトと呼ばれる発芽大麦だけを使ったウイスキー)の蒸留所では、初留釜と再留釜が1基ずつで一対となっています。サントリーやニッカのような大規模な蒸留所では形の異なる蒸留器をいくつか用意して、バラエティに富んだモルトウイスキーを造りますが、クラフトウイスキー蒸留所では普通は一対しかありません。ところが嘉之助蒸溜所では蒸留器が3基(形状の異なる再留釜が2基)という珍しい組み合わせになっています。
さらに蒸留器のネックの形状や上部アームの長さや角度を変えており、香味の異なる多彩な蒸留液が得られます。それをさまざまな樽で熟成することで原酒の香味の幅は大きく広がります。これは小正醸造が焼酎造りで7基の異なる蒸留器を駆使して、多彩な焼酎を造ってきた経験と技術に裏打ちされたものです。
このモルト原酒を使ってリリースされたのが「SINGLE MALT KANOSUKE(シングルモルト嘉之助)」です。温暖な鹿児島ではエンゼルシェア(樽での熟成中に蒸発する分)が年間6~8%と寒冷地より多いのですが、一方で熟成速度は速いと考えられています。また、熟成に使う樽は一部に「メローコヅル」の熟成に使った樽をリチャー(使用済みの樽の内側を再度焼き焦がす作業)したものもあるそうです。
焼酎蔵でもウイスキー製造を開始
一般にグレーンウイスキーは連続式蒸留器を使用し、香味成分が控え目になるのでサイレントウイスキーと呼ばれます。モルトウイスキーにこれをブレンドしたブレンデッドウイスキーでは、モルトウイスキーの特性を引き立てる役割を果たします。
けれども単式減圧蒸留器を使う日置蒸留蔵のグレーンウイスキーは、香味成分を多く取り込みきれいで華やかに香ります。 こうして今春、新たに誕生したのがシングルグレーンウイスキー「KANOSUKE HIOKI POT STILL(嘉之助日置ポットスチル)」です。
日置蒸留蔵には焼酎製造で使ってきた蒸留器が、木製のものも含み7種類あります。おそらくこれほど多様な蒸留器でグレーンウイスキーを造ることができる蒸留所は他にないでしょう。また、スコットランドをはじめ海外の蒸留所には減圧蒸留器を持つところはほとんどありません。減圧蒸留器とそれを使った蒸留酒造りは、本格焼酎造りで発展してきました。これがウイスキー造りに応用されるようになると、将来ジャパニーズウイスキーの特徴のひとつになるかもしれません。
加えて重要なことは、自社でグレーンウイスキーとモルトウイスキーの両方の製造体制が整い、すべて自社製のブレンデッドウイスキーを造れるようになったことでしょう。それが本年4月に発売となった「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY(嘉之助ダブルディスティラリー)」です。
ご紹介した3つの商品、「SINGLE MALT KANOSUKE(48%)」「KANOSUKE HIOKI POT STILL(51%)」「KANOSUKE DOUBLE DISTILLERY(53%)」はすべてアルコール度数が異なります。滓(かす)を取り除いて飲みやすくしたり、旨味を味わうためアルコール度数を高めて滓が出ないようにしたりするなど、それぞれに狙いをもって蒸留方法を設定されているようです。
目指すは「MELLOW LAND,MELLOW WHISKY」
蒸留所の見学の後は2階にある「THE MELLOW BAR」で試飲がおすすめです(要予約)。11mの一枚板のカウンターをからは東シナ海を臨みながらテイスティングができます。息を飲むような美しい景色は、特に夕日が格別なのだとか。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、商品ラベルにはこのカウンター越しの東シナ海の夕日がデザインされています。
1階のミュージアムショップでは蒸留所ウイスキーをはじめ、さまざまなオリジナルグッズが取り揃えられています。
熟成庫の増設も進められており、さらに質量ともに充実したウイスキーの登場が期待される嘉之助蒸溜所。目指すのは「MELLOW LAND,MELLOW WHISKY」。メロー(MELLOW)とは豊かで美しく、ゆっくりくつろぐという意味です。
ゆっくり沈む夕日を眺めながら、くつろいで楽しむ味わい深いウイスキーというイメージでしょうか。ぜひ、一度お試しください。
嘉之助蒸溜所公式HP
※記事の情報は2024年5月16日時点のものです。
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