アイリッシュウイスキー「バスカー」のおいしさの秘密
ボトルに直接プリントされた「BUSKER」の文字が印象的なウイスキー「バスカー」は、一躍日本でアイリッシュウイスキーのトップブランドになりました。そこで製造元のロイヤルオーク蒸溜所のウッディ・ケイン氏においしさの秘密をお聞きしました。
ハイボールファンにもウイスキーマニアにも支持されるラインナップ
なぜ、これほどまでに日本で受け入れられたとお考えですか?
ケイン 日本のウイスキー市場は他の国とは違い、ハイボールが広く普及しています。そのいっぽうで、ウイスキーに詳しいディープなファンもいます。
バスカーのブレンデッドウイスキー「バスカー アイリッシュウイスキー(緑の帯)」がハイボール文化にうまくフィットして、カジュアルに飲むシーンで受けいれられました。スーパーマーケットや量販店にも採用していただけて、この商品は8割がご家庭で楽しまれています。
また、「バスカー シングルモルト(青の帯)」や「バスカー シングルポットスチル(グレーの帯)」はウイスキーマニアやバーシーンで支持されて、プレミアム市場でも認めていただくことができました。
―「バスカー アイリッシュウイスキー」はハイボールでおいしいとのことですが、あえて狙ったのでしょうか?
ケイン いいえ。グローバルに展開する商品ですから日本市場を意識してハイボール向きにしたわけではありません。品質を追求したら、ハイボールでもおいしい商品に仕上がったというのが正確です。
バスカー3つのこだわり「蒸留所」「材料」「樽」
ケイン 大きな特徴として3つあげることができます。ひとつは「バスカー シングルモルト※1」「バスカー シングルグレーン(赤の帯)※2」「バスカー シングルポットスチル」という3種類のウイスキーをひとつの蒸留所で製造していることです。これができるのはアイリッシュウイスキーでもロイヤルオーク蒸溜所だけです。
※1 シングルモルトとは、モルト(大麦麦芽)だけを原料としてひとつの蒸留所の単式蒸留釜で蒸留した原酒から造るウイスキーのこと
※2 シングルグレーンとは、モルトのほかにコーンや小麦、ライ麦などを使いひとつの蒸留所の連続式蒸留器で造るウイスキーのこと
―「バスカー シングルポットスチル」はどんな特徴のあるウイスキーなのでしょうか?
ケイン モルトと未発芽の大麦やオート麦などを原料に、単式蒸留釜で蒸留したウイスキーです。「バスカー」ではモルトと大麦を1:1で仕込み、単式蒸留釜で3回蒸留します。一般的なスコッチウイスキーは2回蒸留なので、アイリッシュウイスキーでは1回蒸留が多いところが特徴で、すっきり軽快な味わいに仕上がります。
ケイン ローカルにこだわり、すべての原料を蒸留所から半径40㎞の範囲から調達しています。モルト、大麦、水、そして労働力。すべて地元のものです。
―大麦を発芽させモルトにする「製麦」の工程も自社で行っているのですか?
ケイン 自社ではやっていませんが、蒸留所から30~40kmのところにある製麦業者に委託しています。
―ブドウ栽培から手掛けるワイン造りでは、すべての原料を地元で調達するのは一般的ですが、穀物を原料とするウイスキーやビールでは珍しいですね。
みっつめのこだわりについて教えてください。
ケイン ウイスキーの熟成に「マルサラワイン」の樽を使っています。イタリアのシシリー島にあるマルサラワインメーカーのフローリオ社は、私たちロイヤルオーク蒸溜所と同じ「イルヴァサローノ社(世界的なアマレットリキュールのメーカー)」のグループなので、いい状態の樽を安定的に調達できます。グレーンウイスキーはこの樽で熟成させるので、「バスカー シングルグレーン」とそれらをブレンドして造る「バスカー アイリッシュウイスキー」に、独特のほのかな甘みと余韻が残るマルサラワイン樽の特徴が、よく出ています。
アイリッシュウイスキー・ルネッサンス
ケイン アイリッシュウイスキーのルネッサンスだといわれています。小規模な蒸留所が続々と参入し、80カ所くらいはあるという人もいます。これからの展開にワクワクしています。ただ、新規参入した蒸留所はほとんどが零細でグローバルマーケットを狙っているわけではありません。私どもロイヤルオーク蒸溜所は業界では5~6番目の規模の中堅です。これからもいいものを造って国際的に展開していきます。
アイルランドは「ウイスキー発祥の地」で、修道士がウイスキーを開発したのがはじまりといわれています。世界中に広まった後、衰退してしまいましたが、それはクオリティが低かったからではなく、さまざまな政治的な理由からでした。
ウイスキーはストーリーも大切です。私たちはまだ新しい蒸留所ですが、アイリッシュウイスキーの持つ古い歴史やバックボーンを大切にしながら、新しいタッチで若い人たちにアプローチしていきたいと思います。
―「バスカー」のボトルデザインは若々しく、フレッシュさを感じます。
ケイン 伝統的な小さめの丸い瓶ではなく、大きく面とれる四角いシェイプにしました。アメリカで受けるのではないかと思っていましたが、日本でブレイクして最大のマーケットになりました。
―ウイスキーイベントで初めて見た時に、パッケージにインパクトがあって「バスカー」という名前も覚えやすくていいと思いました。おいしいと思っても、いろいろ飲んでいるうちに銘柄を忘れてしまうことが多いですから、ひと目でわかるデザインは重要ですよね。
お値段も手ごろで、コストパフォーマンスが高いという評価もあるのではないでしょうか?
ケイン ご評価いただきありがとうございます。おっしゃるとおりで「バスカー アイリッシュウイスキー」はコストパフォーマンスが高いという声をいただいています。
スモールバッチでバラエティを追求
ケイン 先日、年間5800本しか造らない「バスカー スモールバッチ シングルポットスチル」をリリースしましたが、すぐに売れてしまいました。スモールバッチはこだわりの強いウイスキーファン向けに、毎年スペックを変えて発売しています。定番商品は一貫性を重視して、常に同じクオリティのものを提供できるように努めていますが、スモールバッチはそれぞれ個性的でバラエティにとんだ製品を造っています。「バスカー」にとってどちらも重要な仕事です。
―どの商品もおいしいですがアイリッシュウイスキーらしさでいえば、私は「バスカー シングルポットスチル」と「バスカー アイリッシュウイスキー」ではないかと思います。前者はスコッチやジャパニーズにはない味わいですし、後者はマルサラワイン樽のユニークな香味をリーズナブルに楽しめます。
アイルランドではどの商品が売れていて、どんな飲み方がされているのでしょうか?
ケイン アイルランドの空港の免税店などでは「バスカー シングルポットスチル」や「バスカー シングルモルト」など、プレミアムラインの商品が人気です。
ハイボールは日本以外でもアピールしてみたのですが、ニート(ストレート)やオンザロックを好む方が多く、アイルランドでもそうでした。カクテルなら、コーラやジンジャエールで割る飲み方がポピュラーです。
―本日は楽しいお話をお聞かせいただきありがとうございました。
※記事の情報は2024年6月6日時点のものです。
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