人気再熱! ビオワインが美味しくなった理由とは?

環境などに配慮した「エシカル(倫理的)消費」が注目される中、ビオワインの人気も高まっているとか。その秘密に迫ります。

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近年、ワインショップなどをはじめとした酒類販売店で「ビオワイン」を目にする機会が増えました。“自然派ワイン”とも呼ばれているこのビオワインですが、“以前より美味しくなった!”といった理由などから人気が再熱し始めています。なぜ、近頃のビオワインは美味しくなったと言われているのでしょうか。今回は、そんなビオワインについてまとめてみたいと思います。

ビオワインが美味しくなった理由

ずばり、ビオワインが美味しくなった理由は「ビオワイン造りに真面目に取り組む生産者が増えたから」。 細かく挙げると、栽培環境、醸造環境の研究・改善が進んだこと、生産者自体がブドウ栽培や醸造について学んだこと、保存環境の徹底など、生産者自体が、健全なブドウ栽培や品質を重視したワイン醸造に傾倒しだしたことが、理由と考えられるでしょう。

“近年、ビオワインは美味しくなった”とお伝えしましたが、味わいという点では正直厳しい…と言わざるを得ないものも、今なお存在しています。美味しいビオワインの選び方は後述するとして、そもそもなぜ“美味しくないビオワイン”が生まれてしまうのか。 その理由として、筆者はビオワインの定義やブドウ栽培法、ワイン醸造法が関係していると考えています。 これらを知ることが、ビオワイン品質向上の鍵となるはず。 早速、その理由について解説していきましょう。

ビオワインの定義が曖昧

ビオワインが抱える問題点、それは“定義が曖昧”ということ。オーガニックワインや自然派ワイン、ヴァンナチュール…これらすべてが“ビオワイン”と総称されます。国によっては、どこでどんな人がどんな造り方をしているのかに関わらず、誰もが「ビオ」を名乗るワインを売ることができてしまうのです。

例えば、ワインの主要産地であるEUには、オーガニックワインと名乗るための規定が存在しています。そのほかにエコセール、エ・ナチュールプログレ、アグリキュルチュール・ビオロジック、デメテール、エコサート、ヴィーガン協会など、世界中に多くの「ビオ」認定機関が存在しています。これだけ認定組織があると、安心してビオワインを手に取れそうですが、かえってどれが良いのか分かりにくいのです。(一般消費者がすべての認証機関の規則をチェックし、比較検討するのはたいへんです)

日本国内では、「有機農畜産物の日本農林規格」によって格付けされた有機JASマークのブドウを使用することを前提に、さまざまな条件をクリアしたものは「有機ワイン」または「オーガニックワイン」と表示することが可能とされていますが、あえてラベルに記載しない生産者もいるのが現状です。

このように、ビオワインの統一規格が存在しないため、「これこそ、ビオワインである」という基準が分かりにくくなっているわけです。 ちなみに、EUの規定が厳しくなったのは2012年以降であり、それ以前に造られているオーガニックワインは自由にオーガニックワインを名乗ることができた、とされています。つまり、生産者が勝手気ままにビオを名乗れる状況だった、ということです。 以前、日本国内で低品質のビオワインが多く出回っていた理由として考えられるのは、マーケティング目的だったり、「ビオ=健康」といったイメージだけで販売するなど、売り手の知識が少なかったことも関係していると考えられます。

そもそもビオワインは美味しくないのか?

我々消費者は「認証を得た=美味しい」と紐付けがちですが、多くの認証規定には、美味しさをはかる官能検査や消費者リサーチなどは行われることはありません。極論を言うと、「規定は守られています。ただ、美味しいかどうかは分かりません」ということ。実際は味わいも考慮した、真面目な生産者がほとんどですが、過信は禁物です。お酒好きの方であれば「認証も大事だけどまずは美味しさ重視」という方も多いはず。しかし、多くの生産者は美味しいビオワインを造るのは至難のワザだと言います。

なぜビオワインを美味しく造るのは難しいのでしょうか?
グラスに入ったワイン

ワインの製造工程とビオワインの関係性

ビオワインの基本は「有機農法で栽培された有機ブドウが使用されている」こと。有機肥料のみで栽培されるオーガニック農法(一部、防カビ剤などの使用は可)、できるだけ農薬を利用しないリュット・レゾネ、オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーが提唱したビオディナミ農法…このような有機農法で栽培されたブドウが使用されています。

収穫されたブドウは、赤ワインであれば果皮と種子、果汁と一緒に漬け込み、果皮に付着した野生酵母によるアルコール発酵を促します。その後、果汁のみを樽やステンレスタンクに移しますが、基本的にリンゴ酸を乳酸へと変化させるマロラティック発酵が行われるので、それも野生の乳酸菌で発生するまで待ちます。樽熟成させるかステンレスタンクに移すかは生産者の哲学によりますが、適度な熟成期間を経たら瓶詰めされて出荷される、という流れです。

ワイン造りは、ブドウ自体が自分自身の力で発酵を行うことができるため、日本酒やビールなどに比べて、かなりシンプルです。

指摘される問題点

ビオワインの魅力は、前述したワイン造り流れをすべて自然の力でやってのける、というところです。しかし、これらの工程を順調に進めるためには、並外れた努力と経験、ブドウやワインへの知識がないと困難なのです。

1つは、農薬を使わない、または減らすため、原料のブドウが病気にかかりやすく、貧弱で栄養分の少ないものができることが多い、と指摘されています。ポリフェノール量、酸、糖度が足りないブドウから良いワインはできません。

2つ目は、酸化防止の目的で使用される亜硫酸塩の問題です。実は、EUのオーガニックワイン認証の規定でも亜硫酸は使用可能。これを使うか否かは生産者の哲学に委ねられますが、全く使用しないというビオワイン生産者も少なくありません。亜硫酸塩を完全無添加で造る場合、アセトアルデヒドという青臭い香りを抑えられなかったり、果皮につく野生酵母やワイン中の香味を低下させてしまう微生物を死滅できないため、品質劣化しやすいワインとなる恐れがあります。

さらに、ビオワインの多くは、清澄、濾過といった工程を行わないものが多く、瓶詰めされたワインの中に酵母や乳酸菌が残り、保存方法によっては増殖してしまうことが考えれます。何となく甘酸っぱく、きつめの味わいがするビオワインと出会ったことはないでしょうか。乳酸菌が増加し過ぎると、濁り酸敗という現象が起こります。また、発泡性を感じるのは酵母が生き残っており、それが活動して二酸化炭素を出しているからです。 一般的なワインの場合、酸化や品質劣化、細菌汚染を防ぐために、実は各工程でさまざまな防止剤(※ワインの味を変えるのではなく、劣化を促す成分などを防止する目的)が使用されます。

ビオワイン造りは、劣化との戦いでもあるのです。

ほったらかしと、共存の違いか?

ビオワインには、酢酸、ソトロン(カラメルのような香り、日本酒の老香の原因と言われる)、前述したアセトアルデヒド、さらにはブレタノミセスという酵母由来の、馬小屋の臭いや獣の臭い、焦げの臭い、そして薬のような香り(白ワインに特有)などが発生しやすいと言われます。ビオワインを美味しくない…と思ったことがある人は、感じたことがあるかもしれません。しかし、美味しいビオワインには、これらを感じないものはもちろん、美しくピュアでバランスの整った風味となって、飲み手に感動を与えます。この差は一体?

前述した、ビオワインの造り方を思い出してみてください。 まず、ブドウ造りです。有機ブドウを使用することが前提となりますが、健全なブドウを理想的な土壌環境で育てるためには、長い時間と努力を要します。土壌を有機的なブドウ栽培に適した状態に改善させ、ワイン用ブドウについてしっかりと基礎知識を学び直す必要性もあるでしょう。 真面目な生産者はブドウについて研究、探求し続けており、どうすれば、良い色になるか、どうすれば実が小さく凝縮感のあるブドウができるか…など、日々頭を悩ませながら努力を続けています。ブドウは強いようで、とても繊細な果実ですので、化学薬品を使わない分、人間がブドウと対話し続ける必要があるのです。放置して自然に任せる…というアプローチでは、良いブドウはなかなか育ちません。

そして、次に醸造です。 前述したように、良い品質のワインを造るためには、数多くの難問をクリアし続ける必要があります。できるだけ亜硫酸塩を使わずに野生酵母でワイン造りを進めるのは、酸化、細菌汚染、微生物増殖による香味の劣化、褐変など常にリスクとの戦いとなります。だからこそ、真面目な生産者は醸造場を清潔にして細菌汚染などを防ぐような環境を整えますし、香りや音、色、味わいの変化に常に気を使いながらワインと対峙しています。 一昔前のビオワイン生産者のなかには、「自然=放置」という考え方でワイン造りを行う方が多くいました。醸造設備は汚く、それがあえて昔のまま、自然のままで良いとして醸造を続けます。もちろん、使用するブドウの品質は無視され「何もしない自然のままのブドウ」ということで、それらが原料となります。ワインは、あっという間に酸化したり、微生物汚染が進んで、液中の化学成分などの反応により香味、風味が劣化していきます。醸造家のなかには、発酵ではなく、それはもう“腐敗”だ、と指摘する方もいるほどです。しかし、生産者がそれを「ナチュラル」と捉え、ビオワインとして売るのであれば、誰も反論できません。 事実、それを良しとする消費者も一定数いるのが現実ですし、だからこそこのようなビオワインが市場に出回っていたのでしょう。

このような造られ方で瓶詰めされたワインは微生物が豊富に残っており(これはこれで、良い場合もあります)、有機酸量も少なく、ポリフェノール量も少ないことで短命となります。日本に運ばれてくる海外産のワインは、少なくとも数ヶ月かかる上に倉庫で保管され、私たちの手に届くまで相当な時間を有します。その場で飲めば面白いワインだったかもしれませんが、さすがに半年以上経ったこれらのワインを飲めば、美味しいと感じるのは当然です。 冒頭でお伝えした“真面目な生産者が増えた”というのは、こういったリスクを理解した上で知識と技術、経験を磨き、より飲み手に喜んでもらえるビオワインを造ろうという人が増えたということなのです。

美味しいビオワインの見つけ方

ビオワイン造りは、諸刃の刃ということがお分かりいただけたと思います。良いものもあれば、微妙なものもある。だからこそ大切なのは、美味しいビオワインを見つける力を身につけることです。

前述したEUのオーガニック認証であるユーロリーフがついているものは安心できる可能性があります。この認証規定は醸造法にも厳しいため、味わいがほかの認証機関に比べると想像しやすいでしょう。 次に色。黄金色ではなく褐色の白ワイン、異様に色合いの薄い赤ワインは劣化している可能性があるので注意が必要です。

また、より確信を持ってビオワインを選びたいのであれば、生産者情報を知ることが大切。昔と違い、今は生産者情報が手軽に手に入るようになりました。購入元のサイトに情報が掲載されていたり、ワインショップでスタッフに聞けば生産者のワイン造りへの情熱を知ることができるはずです。何も情報がない場合は、販売元に問い合わせたりインポーターを聞き出しましょう。

ビオワインは、一種の哲学的なところもあり、自分が“この生産者のワイン造りは支持できる”と思うことも、美味しいと感じるか否かの大きな差です。

ビオワインこそ、ワインの面白さ

ビール、日本酒、焼酎、ウイスキー、リキュールなど、世界にはさまざまな酒があります。特に、日本国内で楽しめるビールは素晴らしい品質管理のもとで造られていますし、日本酒、焼酎も同様です。リキュールやウイスキーも、独特な香りがあっても個性と見なされますし、どの酒も市場に並ぶまでに、厳しい品質管理を経てやってきています。ワインも、ほとんどのものが同様に品質管理されていますが、ビオワインという世界になると途端にそれぞれが個性的になり、玉石混淆になります。 だからこそ、飲み手側がしっかりと知識を身につけ、産地や品種、銘柄ではなく「生産者」を吟味することが重要になってくるのです。

あの頃、美味しいと思えなかったビオワインは、今進化しています。もう一度、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
bioブドウ畑
※参考文献 「自然派ワイン入門」イザベルレジュロン・著
「ワインの科学」清水健一・著
「国産ワインにおけるフェノール系オフフレーバー『フェノレ』について」恩田匠・著
「新たな時代を迎える日本ワイン」鹿取みゆき・著
「ヨーロッパのバイオ・オーガニック」安倍澄子・著

※記事の情報は2019年5月11日時点のものです。
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