中国酒「白酒(バイジュウ)」とはどんなお酒? アルコール度数や飲み方など、基礎知識を解説!
中国では、紹興酒よりも飲まれているという「白酒(バイジュウ)」。日本ではまだ見慣れない異国情緒漂うルックスですが、白酒とはどんなお酒なのでしょうか? アルコール度数や味わい、飲み方など、白酒の魅力や基礎知識を「一般社団法人 日本中国白酒協会」の方に教えていただきました!
教えてくれたのはこの方々
「白酒」の魅力発信に取り組むべく発足された「一般社団法人 日本中国白酒協会」で理事を務める菊池一弘さん(右)と、白酒をはじめとした中国酒を広く取り扱う「日和商事株式会社」で営業を担当する工藤均さん(左)。「ガチ中華にガチ中国酒を!」を合言葉に、白酒を通して異文化に対する理解を深め、日本の食生活をより豊かにすることを目指している。
一般社団法人 日本中国白酒協会
中国酒「白酒」が今、日本でも注目度を上げている!
でも実は、白酒は中国では紹興酒よりもよく飲まれているポピュラーなお酒なんです。
最近では日本でも、日本人向けにアレンジされていない本場の中華料理が楽しめるお店(通称・ガチ中華)が増えており、それならば、そんな中華料理とともに発展を遂げてきたガチ中国酒の白酒も一緒に楽しまなければもったいない!
…ということで、その魅力や特徴について理解を深めるべく、「一般社団法人 日本中国白酒協会」の方にお話を伺ってきました!
白酒の基礎知識①|今こそ、ガチ中華にはガチ中国酒「白酒」を!
菊池 ひとことで言うと、我々の大好きな「白酒」の魅力をより多くの日本の方に知っていただきたいというのが協会設立の目的です。
私は以前北京に4年間滞在していたのですが、現地で料理に合わせるお酒といえば白酒が定番でした。白酒は、中国では食中酒の代表で、広い地域で料理とともに楽しまれているんです。ところが、日本では中国酒といえば「紹興酒」という認識がほとんどで、白酒を気軽に楽しめる場所が少なくて…。
日本でも中華料理はポピュラーな存在ですし、最近では日本人向けにアレンジされていない中華料理「ガチ中華」を提供するお店も増えてきています。そんな中で、ガチ中華と相性バツグンの白酒があまり知られていないのは非常にもったいないと感じました。
せっかくなら日本の方にも中華料理と一緒に白酒を楽しんでもらい、そのおいしさを体感してほしい。そして白酒を通して互いの文化を理解し合い、食生活をさらに豊かなものにしていきたい。そんな思いで協会を立ち上げました。
―たしかに日本では、中国酒というと「紹興酒」をイメージされる方が多いかもしれません。日本で紹興酒が広まったのはなぜなのでしょう?
工藤 諸説ありますが、1972年の中国との国交回復より以前に台湾から紹興酒が入ってきたことで、紹興酒に対するなじみが深くなったことが一因かもしれません。
また、その当時日本にいらっしゃった華僑の方の多くが、紹興酒が多く飲まれる中国の南のエリア出身でした。彼らが営む中華料理店で、中国酒として紹興酒が提供されていたことも関係しているかもしれませんね。
ちなみに、現在日本にいる華僑の方の多くは、白酒に親しんできた中国東北地方出身の方です。そのため最近では、町の中華料理店などで白酒を見かける機会が増えたように感じます。
白酒の基礎知識②|白酒の読み方は? パイチュウ? バイジュウ?
工藤 もとが中国語ですので、聞こえ方によってさまざまな読み仮名が振られていますね。
輸出入関税の規定では「チャイニーズバイジュウ」という名前で統一されていますので、「バイジュウ」と読んでいただくのが良いかと思います。
白酒の基礎知識③|白酒とはどんなお酒?
工藤 白酒は、高粱(コウリャン)やトウモロコシなどを原料にしてつくられる中国の蒸留酒です。アルコール度数は30~60度と高く、中には70度のものもあります。
紹興酒をはじめとする醸造酒の「黄酒(ホワンチュウ)」の液体が茶色っぽいのに対し、無色透明であることから「白酒」と呼ばれています。
―白酒は、いつ頃からつくられているのですか?
工藤 その歴史は古く、起源には諸説あるのですが、原型がつくられたのは宋の時代(960年~1279年)とする説が有力です。日本だと平安時代にあたりますね。
白酒は、中国北部や南西の内陸部など、広い地域でつくられてきました。現在でも中国国内での生産量は圧倒的で、黄酒と比べるとその比率は白酒7:黄酒3程度になっています。
―すごく歴史のあるお酒なんですね。広い地域で、黄酒ではなく白酒がつくられるようになったのはなぜでしょうか?
工藤 中国の多くの地域は寒冷で水が少なく、黄酒の原料となるもち米が育ちにくい環境だったことが挙げられます。
そのため、地域を選ばず生産可能な雑穀類を原料とする白酒づくりが広まっていったのだと思います。
白酒の基礎知識④|白酒はどのようにつくられている?
工藤 白酒づくりの大きな特徴は、発酵方法にあります。
通常、お酒のもととなる「もろみ」は液体状ですが、白酒のもろみは水分の少ない味噌のような形状をしています。
土に「発酵窖(はっこうこう)」と呼ばれる巨大な穴を掘り、そこに白酒の原料と「曲(チュー)」と呼ばれる麹を添加した発酵前の混合物を入れて上から土をかぶせ、土の中で発酵させます。この方法を「固体発酵」と言います。
先ほどのお話にもあったとおり、白酒は中国北部や南西の内陸部などの水が潤沢でない地域でつくられていたので、このようにあまり水を使わない発酵方法が生み出されたのかもしれませんね。
また、土の中で発酵させるため、原料から発生したアルコールが蒸発しにくく、高いアルコール度数が保たれるのも特徴です。
―「固体発酵」という方法は初めて耳にしました。現在でも穴を使って発酵させているんですか?
工藤 はい。近代化された現在の工場でも、穴の中で発酵させる方法は変わっていません。長く使うほど穴が育つと言われていて、古い工場では600年ほど前から同じ穴を使っているんですよ。
穴がつくられた年代や地域などによって、そこに棲みつく微生物も変わってきます。その微生物たちが、白酒の香りや風味づくりに大きく関わってくるんですね。そのため、同じ原料、同じ工程でつくったとしても、穴が違えば同じ風味の白酒ができるとは限らない。地域性が非常に色濃く出てくるお酒なんです。
―穴によって風味が変わるのは面白いですね。そのあとはどのような過程を経て完成するのですか?
工藤 数週間、土の中で発酵させたもろみは一度掘り出し、単式蒸留機で蒸留します。蒸留が終わったら再び「曲」を加えて穴に戻し、再度発酵させます。
その工程を数回繰り返して液体を集めたら、甕(かめ)の中に入れて熟成させます。
白酒の基礎知識⑤|白酒の種類、味わいは?
工藤 白酒は香りや風味によって分けられ、その分類を「香型(シャンシン)」と言います。もっと細かく分けることもできますが、基本的なものは以下の3種類です。
醤香型(ショウコウガタ)
上品でまろやかな香り。飲み干したあとのグラスや口の中に、香りが長く残る。味わいは濃厚で芳醇。淡白な味付けの料理と相性が良い。
濃香型(ノウコウガタ)
発酵窖特有の果実香が味わえる。香り高く濃厚だが、清らかさもある。爽やかな甘味が長く残る。味が濃く、脂っこい料理と好相性。
清香型(セイコウガタ)
パイナップルに似た果実臭を持つ酢酸エチルの爽やかで上品な香りがする。濃香や醤香よりもクセがなく、やわらかでさっぱりとした味わいで、余香がいいのも特徴。薄味で、あっさりとした料理に合う。
香型によってまったく異なるお酒のように感じられるのが、白酒の面白いところです。言葉だけではわかりづらいと思いますが、実際に飲んでいただければ、すぐに実感してもらえると思いますよ。
白酒の基礎知識⑥|ひな祭りの「白酒」との関係は?
工藤 白酒(しろざけ)と白酒(バイジュウ)は、漢字は同じですが別のお酒です。
ひな祭りに飲む白酒(しろざけ)は、みりんをベースに蒸したもち米や米麹を混ぜて数カ月間熟成させ、できたもろみを石うすで細かくすりつぶしてつくるお酒です。アルコール分は約7%で甘みが強く、酒税法上では「リキュール」に該当します。
一方の白酒(バイジュウ)は、日本の酒税法上ではその製法の特徴から「スピリッツ」に分類されます。
白酒の基礎知識⑦|白酒はどのように飲まれている?
菊池 こちらの写真にあるような10mlほどの小さなグラスを使って、ストレートで飲むのが一般的です。ただ最近、若い方の間では、炭酸やジュースなどで割って飲むスタイルも流行ってきていますね。
一般的に、お酒の香りは広口のグラスのほうが広がりやすいと思うのですが、白酒に限っては、この小さなグラスのほうが凝縮された香りが楽しめる気がするんです。これは、私の主観なんですけどね(笑)。
―本当にすごく小さなグラスですね。この量だと一気に飲み干すことが多いのでしょうか?
菊池 たしかに一気に飲まれることもありますが、強要はしないのがマナーです。白酒はアルコール度数も高いですし、中国には泥酔をよしとしない文化もあるので、あまり飲めない人は口をつけるだけでもOKです。各々のペースで楽しんでいるという印象ですね。
―どんなシチュエーションで飲まれることが多いですか?
菊池 家で飲むのはもちろんですが、みんなが集まる宴会や、おめでたい席などでも白酒が出されます。高級な白酒が出てくると「おー! お祝い事らしくなってきたね!」と盛り上がったりしますよ。
白酒の基礎知識⑧|白酒の代表的な銘柄は? はじめて飲むならどれがおすすめ?
工藤 ポピュラーなものは、こちらの3種類になります。
・濃香型の「五粮液(ゴリョウエキ)」
・醤香型の「貴州茅台酒(キシュウマオタイシュ)」
・清香型の「汾酒(フンシュ)」
です。
各銘柄、この1種類ずつだけではなく、価格帯含めてさまざまなシリーズがあります。
この写真に写っている五粮液と貴州茅台酒は上等なもので、大切な方への贈り物にしたり、おもてなしの場などでも飲まれたりしています。右側の汾酒は先の2本に比べるとリーズナブルで、北京などでよく飲まれている印象です。
ただ、どのボトルも500ml入りと容量が多いので、白酒を飲んだことのない方がいきなり買ってみるには少しハードルが高いかもしれません。
―それでは、白酒初心者のはじめの1本におすすめの銘柄はありますか?
白酒はアルコール度数が高いので、中国でも「ちょっと荒々しい男たちのお酒」というイメージがありました。ですが最近では、この江小白のように、さまざまな飲料で割って気軽に楽しめる若者向けの商品も出てきています。
江小白はクセがなく爽やかな香りと味わいなので、ストレートはもちろんカクテルのベースとしても使いやすく、ファースト白酒としてはぴったりだと思います。
白酒の基礎知識⑨|ガチ中国酒「白酒」を楽しもう!
菊池 今、日本でもガチ中華が味わえるお店が増えていますが、やはり地元の料理に一番合うのは地元のお酒だと思います。合わせることによって料理のおいしさも倍増しますし、それぞれのお酒が、その土地の料理にぴったり合うようにつくられていることも実感していただけると思います。
白酒はスパイシーな中華料理とともに発展してきたお酒なので、四川料理などの辛い中華料理と一緒に楽しんでみてほしいですね。口の中に残る辛さや油をすっきりと洗い流してくれますよ。
最近では白酒をグラス売りしている中華料理店も増えてきていますので、まずはそういったところから試していただくのがおすすめです。
白酒は、地域や銘柄によって香りと風味がまったく異なる奥の深いお酒ですので、みなさんにその魅力を知ってもらい、楽しんでいただけたらうれしいです。
白酒の基礎知識・おまけ|白酒を編集部員が飲んでみた!
清香型の「江小白(ジャンシャオバイ)」と、濃香型の「沱牌六粮(ダハイロクリョウ)」を実際に味わってみました!
白酒試飲①|江小白(ジャンシャオバイ)
編集部員E
(クンクン…)たしかに、香りはすっきりしていてクセがないね。
編集部員A
アルコール度数は40度か。ふだん飲んでいるお酒に比べるとやっぱり高いよね。
編集部員H
わ! 飲んでみると、爽快感のある空気が口の中にフワッと広がる感じがしました! だけど刺激はなくて、ほんのりとまろやかな甘みもあります。
編集部員R
本当だ、爽やかな風が口の中を吹き抜けていく感じ! 後から喉元がじんわりと熱くなります。クセがないからジュースや炭酸で割っても楽しめるし、白酒初心者は挑戦しやすそうですね!
白酒試飲②|沱牌六粮(ダハイロクリョウ)
編集部員R
さてお次は「沱牌六粮」という白酒です。こちらも四川省でつくられていて、香型は「濃香型」、アルコール度数は50度です。
編集部員H
日本酒の吟醸香のような甘くてフルーティーな香りがします。濃香型というだけあって香りが濃厚!
編集部員A
かすかに、土や干し草のような香りも感じます。これが発酵窖の特有の香りなのかな。大地の芳醇な香りが閉じ込められている気がするよ。
編集部員E
(一口飲んで)おお、これは新感覚! 甘みや力強さがパンパンッと段階を分けて感じられて、最後にスッと爽快感が残る。一口の中でこんなに違った味わいが楽しめるお酒、はじめてだよ。
編集部員R
複雑な味わいが何重にも感じられますね。面白い! 香りも味も、さっきの江小白と同じ白酒とは思えません。いろんな種類を試してみたくなりました!
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世界で一番飲まれている蒸留酒とも言われる「白酒」。実際に飲んでみて、一口でその奥深さに魅了されました。これを飲まないのはもったいない!
ぜひみなさんも、お店で白酒を見かけた際は気軽に試してみてください。これまでに体験したことのない、お酒と食の新しい扉が開くかもしれません。
※記事の情報は2022年7月27日時点のものです。
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編集部員R
まずはファースト白酒におすすめしていただいた「江小白」を飲んでみましょう。こちらは中国の四川省重慶市でつくられていて、香型でいうと「清香型」にあたり、爽やかな香りが特徴とのことです。