〈家飲み文化部②〉観れば家飲みしたくなる、家飲みシーンがステキな映画8選
おいしそうな食べ物で観る人の食欲を激しく刺激する画像やテレビ番組・映画を「飯テロ(めしテロ)」と言うそうです。それなら、見る人の飲みたい気持ちを爆発させる「飲みテロ」、なかでも家で飲むシーンに限定した「家飲みテロ」ってあるのでしょうか。イエノミスタイル編集部が厳選してみました。観ればきっと家飲みしたくなる、家飲みシーンがステキな映画をご紹介します。
1. 「マディソン郡の橋」 家飲みは恋愛の前奏曲
1995年 米 監督:クリント・イーストウッド 出演:メリル・ストリープ、クリント・イーストウッド
映画のなかで男と女が出会って、女が男を家に夕食に招き入れて手料理をふるまったりお酒も飲んだりしたら、必ずといっていいほど恋愛に発展します。妙齢の男女の家飲みは、恋愛へのプレリュードなのです。家族そろってテレビで映画を観ているときにこういう家飲みシーンがはじまったら、10代前半の少年はたいてい落ち着かない気分になったものです。
「マディソン郡の橋」は、世界で五千万部という大ベストセラーの映画版。アメリカ中西部、アイオワ州の農村を舞台にした、主婦フランチェスカ(メリル・ストリープ)と写真家のロバート(クリント・イーストウッド)との出会いと別れの物語です。土地に縛りつけられたように暮らすフランチェスカと、太平洋岸のワシントン州からやってきて旅から旅の生活を送るロバートが、夫と子供たちが旅行中のフランチェスカの家で数日間を過ごします。
二人が出会った日の最初の「飲みもの」は、屋根付き橋のたもとで、フランチェスカがロバートに勧められて飲むセブンアップ。次はフランチェスカが家でふるまうアイスティー。二人は夕方になってロバートの車からビールをとってきて簡単なディナーを食べ、夜更けにはブランデーグラスを手に語りあいます。年齢を重ねた二人がぎこちなく会話したり料理したりしながら、お酒の勢いもあって少しずつ親密になっていく様子には、息苦しくなるようなときめきを覚えてしまいます。
ロバートのピックアップにたくさん積んである、白いラベルに赤い「R」の文字が描かれた瓶ビールは、ワシントン州の地ビール「レイニア」。これをロバートは瓶から直接飲み、フランチェスカはいかにも田舎っぽいヘンなグラスに注いで飲みます。このへんの細部からもそれぞれの暮らしぶりや、二人の間の埋めることのできない距離が伝わってきて、胸を打ちます。
2. 「月の輝く夜に」 シャンパンに角砂糖
1987年 米 監督:ノーマン・ジェイソン 出演:シェール、ニコラス・ケイジ
歌手のシェールが女優としても頂点を極めることになった映画(アカデミー主演女優賞)。家飲みが恋愛への入り口というのはこの映画でも同じなのですが、このロマンチック・コメディの家飲みシーンは、かなり風変わりです。
ニューヨークで両親、叔父叔母、祖父というイタリア系大家族と暮らすロレッタ(シェール)。婚約者に「実は弟がいる」と打ち明けられ、一人でその弟、パン職人のロニー(ニコラス・ケイジ)に会いに行きます。ロレッタが婚約を伝えると、ロニーは自分が苦労しているのに呑気に婚約した兄をなじり、パン釜の前で激高します。
ロレッタはこれにひるむどころか逆にお説教を始め、パン屋の二階のロニーの自室に押しかけて勝手に料理開始。自分もムシャムシャ食べながらワインを飲みお説教を継続します。さらに頭に来たからウイスキーをくれと要求し、J&Bをタンブラーにたっぷり注ぎ二人してストレートでグイグイ飲み始めるのです。
映画の冒頭と終わりに登場するシャンパンの「G.H.マム」も印象的です。家族がこれで乾杯するラストシーンでは、シャンパンを注いだグラスに角砂糖がひとつずつ放り込まれます。一説によるとこれで泡がたくさん立つんだとか。この他にも、ロレッタの父親が赤ワインをガブ飲みする場面や、ロレッタのスパゲッティの食べ方など、イタリア系アメリカ人の飲んで食べる様子、そして家族のありかたが生き生きと描かれていて、「家飲み視点」で実に楽しい映画です。観終わったら自然と瓶に手が伸びてしまうことうけあいです。
3. 「ゴッドファーザー」 マフィアの男たちの酒
1972年 米 監督:フランシス・フォード・コッポラ 出演:マーロン・ブランド、アル・パチーノ、ジェームズ・カーン、ロバート・デュヴァル
「ゴッドファーザー」の制作中にコッポラ監督は、同作よりも半年早く公開され大ヒットした「フレンチ・コネクション」を観にいって、自分が監督してる「ゴッドファーザー」はここまで流行らないだろうな、と思ったそうです。かたや映画史に残るようなカーアクションあり、ジーン・ハックマン演ずる刑事の派手な立ち回りありという大活劇。それにくらべて「ゴッドファーザー」はほとんどのシーンで男たちがすわりこんで話し合ってるだけだから、というのが理由です。
そのひたすら陰鬱な映画が公開後にどう評価されたかはここで言うまでもありません。ただ確かに、監督自身が言うように「ゴッドファーザー」は登場人物が室内で着席しトークしている場面が多い映画です。すわって話すだけでは間が持ちません。で、何をしているかというと、酒を飲んでいるのです。対立組織にいつ殺されるかわからないからレストランやバーとかでなく、飲むのはたいてい家の中。つまり「ゴッドファーザー」とは家飲みシーンの積み重ねだと言うことができます。
末娘コニーの結婚式で客に振る舞われていた飲みものこそ赤ワインでしたが、マフィアの男たちはふだん、もっと強い酒を飲んでいます。縦長のタンブラーになみなみと注いだ茶色の液体。スコッチかブランデーかバーボンか、とにかく蒸留酒らしきものです。ときおり、小さなグラスで透明の酒(アニス酒、グラッパなど)をあおっています。
食べるほうでは、これから宿敵に戦争を挑もうという作戦会議の席で、テーブルを囲んで食べるチャイニーズ・デリが印象的でした。長兄のソニーを演じたジェームズ・カーンの食べる様子を観ているとむしょうにお腹が空いてきます。このときは、大仕事前なのでコークまたはビールらしきものを飲んでいます。
長年ファミリーのトップに君臨し、強い酒を飲んできたヴィトー・コルレオーネ(マーロン・ブランド)も、年をとり次第に身体が弱ってきます。三男のマイケル(アル・パチーノ)に後のことを託すため二人静かに話す場面で、自宅菜園のテーブルに乗っているのは赤ワインが注がれたワイングラス。ヴィトーは「いまはワインがうまい」とつぶやき、マイケルは「それはいいことだよ」と父をいたわります。ファミリーの歴史は、家飲みしながら受け継がれていくのです。
4. 「マーサの幸せレシピ」 床がディナーのテーブル代わり
2001年 独 監督:サンドラ・ネッテルベック 出演:マルティナ・ゲデック、セルジオ・カステリット、マクシメ・フェルステ
家飲みの主役は、酒そのものよりも、やっぱり家庭料理です。ではどんな料理がいいのか。この映画がそのヒントをくれるかもしれません。
ドイツ・ハンブルクの高級フランス料理店のシェフ、マーサ(マルティナ・ゲデック)。疎遠だった妹が事故で急死し、その娘、8歳のリナ(マクシメ・フェルステ)を急遽引き取ることになります。ところが、母を亡くしたショックなのかこの姪っ子が何も食べようとしないのです。一流シェフのマーサが作る家庭料理にも、ぜんぜん手をつけません。
その窮状を、イタリア人の新人副シェフ、マルコ(セルジオ・カステリット)が救います。リナが厨房に来たとき、マルコは「まかない」のパスタをおいしそうに食べてみせることで、彼女の食欲に火をつけます。
そして、マルコとリナが準備してマーサを招待した食事の場面。二人で料理したのはスパゲッティ、そして焼いただけのいろいろな野菜、生ハムというシンプルなもの。料理はテーブルではなく床に置かれ、野菜は手づかみ。車座になって語らいながらむしゃむしゃ食べます。マルコはグラスに赤ワインをどばどば注いで飲みます。これが食べるのも飲むのも、ものすごく美味しそうで楽しそう。イタリア人歌手のパオロ・コンテが歌う「Via Con Me」が挿入歌として流れ、とても良い雰囲気を醸し出しています。
繊細で完璧な料理よりも大切なものはなにか、マーサは二人に教わるのです。この映画では、この他にも家飲みシーンがいくつかあって、どれもいい感じ。テーマ曲に使われているキース・ジャレットの「カントリー」は、家飲みのBGMにもピッタリな名曲です。
5. 「再会の食卓」 人生に家族に、白酒で乾杯
2010年 中国 監督:ワン・チュエンアン 出演:リサ・ルー、リン・フォン、シュー・ツァイゲン、モニカ・モー
1949年の国民党軍の台湾撤退で、ユィアー(リサ・ルー)とリゥ・イェンション(リン・フォン)の新婚夫婦は生き別れになっていました。上海で別の男性ルー・シャンミン(シュー・ツァイゲン)との事実婚生活を送り、子供たちを育て上げたユィアーのところへ、40数年ぶりに、台湾での妻と死別したリゥが現れます。ユィアーを台湾に連れ帰るのが目的です。普通なら大いにもめそうな展開ですが、すでに三人とも高齢。ルーは、リゥを忘れられない妻の心を理解し、二人を快く台湾に行かせてやろうと決心します。
物語の舞台となっているのは1990年代、バブルが興隆しはじめた上海。古い町並みが次々と超高層ビル群に飲み込まれていきます。その街の市場を、リゥを精一杯もてなそうとするルーが、少しでも良い上海ガニを求めて駆け回ります。またリゥも食材を買い込み高級料理の「佛跳牆(ぶっちょうしょう)」をつくるなど、家で三人、毎日のように食卓を囲みます。特にルーは訪れる別れを乗り越えようとでもするように、夢中で食べます。
そして、よく飲むのです。三人が家でいつも飲んでいるのは、中国の蒸留酒「白酒」です。このアルコール度数50度以上にもなる強い酒を、お猪口で乾杯を繰り返し、何杯も飲みます。一度だけあったレストランの場面でも、ルーは黄酒(紹興酒などの醸造酒)では物足りないから白酒を持ってこいと注文していました。70歳近い高齢者が50度の酒を毎日ストレートであおり、40年以上前の恋を巡ってあけすけに語りあうのがリアルな中国人像なのであれば、その生命力に今の日本人で太刀打ちできるのか、自信がなくなってきます。
台湾撤退前の新婚時代の回想シーンは一度も出てこないのですが、ユィアーの孫娘ナナを美人女優モニカ・モーが演じているので、観客は美しき若妻ユィアーの姿を想像しつつ、1949年に思いを馳せることができます。
6. 「ノッティングヒルの恋人」 不味い料理と不幸自慢
1999年 英 監督:ロジャー・ミッシェル 出演:ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント
料理はおいしいにこしたことはありません。でも、料理が不味くたって楽しめるのが家飲みです。
美しいハリウッド女優アナ(ジュリア・ロバーツ)とロンドンのさえない書店主ウィリアム(ヒュー・グラント)の恋を描いた「ノッティングヒルの恋人」は、現代版「ローマの休日」といった物語です。アナが本を買うため書店を訪れたことで知り合った二人。ウィリアムが、まさか来ないよなと思いつつ、友人たちが妹のために催してくれる誕生パーティーにアナを誘うと、アナは思いがけず「行く」と答えます。
誕生日会に自宅と料理を提供してくれるのはウィリアムの親友のマックス(ティム・マッキナリー)です。このマックスの手料理がとにかく不味い。だから誰も食べません。アナも前もってウィリアムから「食べるな」と忠告されていたためべジタリアンだからと言い訳をして丁重に断ります。
料理は不出来でも参加者は心から楽しそうで、赤白のワインが何本も空いていきます。デザートのチョコレート・ブラウニーがひと切れ余ったのを争奪するためにはじめたのは「不幸自慢」ゲームです。一人ずつ自分がいかに不幸かを打ち明け合い、爆笑したりしんみりしたり。そんなふうに互いの親交をさらに深め合うのです。
食べものがうまいとか不味いとか、そんなの本質的なことじゃない、という制作者の思いが伝わってきます。派手な食文化が育たない負け惜しみでもなんでもなく、イギリス人は本当に、あんまり美食を追い求めたりするのはカッコ悪いと考えているのではないでしょうか。不味い料理も自分の不幸も笑いの種にして、友人を大切にして地に足のついた人生を謳歌する。そうしたイギリス人気質に、窮屈だけれど居心地のいい家の雰囲気に、アナが静かに感化されていく。その過程がこのラブコメ映画に何とも言えない深みを与えています。
7. 「ブギーナイツ」 カリフォルニアの太陽とマルガリータ
1997年 米 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 出演:マーク・ウォールバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア、へザー・グラハム
ポルノ映画制作の内幕を描いた映画で、その題材にもかかわらずとても高い評価を受けた作品です。1970年代から1980代にかけてのポルノ映画産業の輝きとアダルトビデオに押されて斜陽となっていくまでを、一人の若者の栄光と挫折を通して描いています。
スターダムにのし上がって驕りをきわめ、やがて転落し孤独にさいなまれる主人公ダーク(マーク・ウォールバーグ)。時代に迎合する作品に方針転換し、大切な女優を侮辱され怒りを爆発させる監督のジャック(バート・レイノルズ)。ちょっとエッチではありますが、同時に涙なくしては観られない、青春映画の大傑作と言っても過言ではありません。
ジャックが所有する邸宅ではスタッフや俳優たちが寝食をともにし、疑似家族のような集団を形成しています。つまりそこがみんなの「家」です。邸宅では毎日のようにプールサイドでパーティーが開催され、大勢のゲストが集まります。供されるカクテルは、いい加減にミキサーで混ぜただけの自称フローズン・マルガリータ。レシピはちょっとテキトーでも、カリフォルニアの太陽と、邸宅のプールがあって、そこにビキニ姿の美女たちがいれば他になにが必要でしょうか。こんな家飲み一度は体験したかった! これぞ男子一生の夢です。
8. 「ホリデイ」 人間は家で飲む生きものである
2006年 米 監督:ナンシー・マイヤーズ 出演:キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレット、ジュード・ロウ、ジャック・ブラック、イーライ・ウォラック
最後にご紹介する「ホリデイ」は、英米のスター俳優4人が共演したコメディ映画です。ロンドン郊外に住むアイリス(ケイト・ウィンスレット)と、ロサンゼルスに住むアマンダ(キャメロン・ディアス)。見ず知らずの二人は、それぞれの失恋を機に、ウェブサイトの「ホーム・エクスチェンジ」でお互いの家を交換する休暇を計画。異国でクリスマスを過ごす二人が、それぞれ心を許せる男性と出会う、という物語です。
乾いた風の吹くロサンゼルスの大邸宅と、雪の舞う田園のコテージ。テーマが「家の交換」なので、家のシーンが多く出てきます。そしてこの互いに慣れない環境で、どちらもいつも何か飲んでいます。
目的地に着くなりアマンダが瓶から直接ガブ飲みする赤ワイン。泥酔してコテージのドアを叩いたアイリスの兄グラハム(ジュード・ロウ)と飲むブランデー。グラハムの家で幼い娘たちと飲むマシュマロ入りココア。
アイリスは、アマンダの「元彼の友人」マイルス(ジャック・ブラック)や引退した脚本家アーサー(イーライ・ウォラック)たちと赤ワインを飲み、マイルスがアイリスに買ってきたカフェ・フラペチーノを飲み、失恋したマイルスをなぐさめようと透明の蒸留酒を飲ませ、アメリカまでおしかけてきたアイリスの元彼にあきれながら白ワインを注ぎます。
レストランのシーンではビールや日本酒も。とにかく多種多様な飲みものが登場します(ちなみに注意して観ると固形物を食べる場面はほとんどありません!)。そしてラストシーンを飾るのは新年を祝うシャンパン。人間は「家で飲む生きもの」である。そんな風に強く意識させてくれる「ホリデイ」は、究極の「家飲み映画」なのです。
素敵な家飲みシーンの映画は、無限にあるはずです。皆さんの好きな映画の「家飲みシーン」を、ぜひFacebookのコメント欄やtwitterで、教えてください。たくさん集まったらこの記事の第2弾にまとめたいと思います。それでは次回をお楽しみに!
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※記事の情報は2017年6月20日時点のものです。
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