谷口菜津子『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』の再現レシピ《肴は本を飛び出して⑯》
「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲んでみたい」 家飲み派の筆者がささやかな夢を叶える連載、今回は筆者的家飲みバイブル殿堂入りのコミックエッセイ、谷口菜津子さんの『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』からの再現です。
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◾こんな本です
『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』(以下、『スキマ飯』)は、漫画家&イラストレーターの谷口菜津子さんが「ごぼうびのような私の趣味 それは一人飯」として、実際に作って食べたものを集めたコミックエッセイです。
谷口菜津子 /KADOKAWA『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』[プロローグ]より
私がたしか7、8年前に初めて買った谷口さんの単行本は、ブログを基にした『わたしは全然不幸じゃありませんからね!』(角川書店)。その頃の谷口さんはお金がなくてふりかけをつまみに飲んだり元彼にひどい目にあったりしていて、端から見ると「えっ、大丈夫?」な状況だったようですが、謎のピンク色の怪獣チックな自画像とセリフのコミカルさ、周りの人たちのキャラの濃厚さにより悲壮感は薄まっていて、読後はなんだか元気になれるちょっと不思議な一冊です(そして巻末に収録されている『レバ刺しとわたし』は何度読んでも泣ける名作)。
特に印象的だったのは、「冷蔵庫にこれしかないと、にんじんと大量のバターと味噌を電子レンジでチン。さらに別の日はご飯に生玉子をのっけて粉チーズドシャ、醤油かけてしゃばしゃば食らう」という場面。
これがミョーにおいしそうで、このときから「この人は食べ手として信頼できる!」と強く思ってきたのでした。その後どんどん谷口さんの食いしん坊魂が発揮された作品を目にすることが増え、いちファンとしては嬉しい限りの昨今でございます。
ご本人のインスタグラムには日々のたまらんおつまみなどが投稿されていて実に眼福なので、気になる方はぜひチェックしてみてください。
谷口菜津子(@nco0707)さんのInstagram
『スキマ飯』には、「晩酌用目玉焼き」としてさまざまな調味料を合わせたり高い卵を食べ比べたり、白キムチの素で野菜や魚介、チーズなどを漬けまくったり(真似してハマりました)、「お恥(ち)まみ」と称して「一人でこそこそ食べる世にも恥ずかしき酒のお供」を連発したりと、家飲みの参考になりまくるネタがみっちりと詰まっています。
衝撃の「お恥まみ」であるところのバターカナッペ(バターの上に明太子やチョコをのせる)や粉チーズと卵黄を練っただけのもの、おうちで旅館めしを再現などにも惹かれますが、今回真似してみたのはこちらです。
「¥3500で天国に逝ける家飲み」
谷口菜津子 /KADOKAWA『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』10食目[¥3500で天国に逝ける家飲み]より
谷口菜津子 /KADOKAWA『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』10食目[¥3500で天国に逝ける家飲み]より
ここでまずは本家のパーティの様子をご覧ください。
谷口菜津子 /KADOKAWA『レトルト以上・ごちそう未満! スキマ飯』10食目[¥3500で天国に逝ける家飲み]より
誰に遠慮することもなく、好きなだけ豪華食材を堪能するって最高ですなぁ。これを見たら“絶頂”を再現してみたくなる気持ち、おわかりいただけると思います。
さてさて、そんな流れを汲みつつ私が開催したパーティはこんな感じでした。
買い出しはちょいとお高めスーパーやデパ地下でいいもの狙っちゃう? とも思いましたが、こんな状況なので少しでも地元の個人商店を応援したく、小規模な専門店を巡ることにしました。お酒だけは選択肢を広げたくて量販店に頼ってしまいましたが……。
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① 魚の部
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本マグロのお造り2種盛り(トロ入り♡)630円、ホタルイカ180円、下ごしらえ済みのあん肝340円、生食用牡蠣270円。
この魚屋さんは新鮮でいいものが安いのでいつもお客さんがいっぱい。今回もいい買い物ができました。
② 乾物の部
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③ 肉の部
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高級肉を扱う精肉店で「予算がこれくらいなんです」と伝え、グラム数を何度か調整してもらったA5級黒毛和牛様、100グラムちょいで852円なり〜。
④ 酒の部
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合計3465円!
なかなかいいラインまで責められたのではないでしょうか。
できあがったのがこちらですー。
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それにしても美しいグラデーション。久しぶりに食べるトロのおいしさに震えました。
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買ってきたお造りのまま食べていたら7切れをひょいぱくひょいぱくっと瞬殺してしまいそうだったので、ちまちまと切り分けてみたのが大成功。
みみっちい性格の賜物といえましょう。
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このひと鉢で永遠に飲めそう……。
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これがですねー、もう、むほほほほって声がでるくらいうまかった!
とろけるんです。かりっ、ねとっ、とろ〜って。たまらん。日本酒のペースを抑えるのがたいへんでした。
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ぱんぱんに膨らんだホタルイカから熱々の肝が出てきますのでご注意ください。ふと思いついてクミンパウダーを混ぜた醤油を軽く塗ってみたらめちゃ合いました。
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しかし、忘れちゃいけないのが真っ赤なあいつ。
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贅沢の仕上げということでご飯を炊いてミニ丼にしちゃいましょう。
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あーもう最高でしかない。
魚も珍味も肉も酒も好っきなだけやったった! まさに「やったった!」という気持ちです。
3500円の家飲みは天国に逝けそうなくらい幸せだということを身をもって体験した今回の再現。心からおすすめいたします。
やって! 全員!
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しかもこれだけ楽しんだというのに、ほとんどの食材がまだまだ残っているという僥倖。
翌日、翌々日まで持ち越して堪能しました。なんならまだ冷凍庫にあん肝残ってる。
そして「自分で自分のご機嫌をとった」という行為の幸せな余韻は今も続いています。
もしこれが予算5000円になったらどうなっちゃうの!? なんて甘く危険な誘惑もぽわぽわ頭に浮かびつつ、元どおりの質素な家飲みもまた楽しんでおりますよ。
※記事の情報は2021年2月18日時点のものです。
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