安野モヨコ『食べ物連載 くいいじ』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㉜》
ヒットメーカー安野モヨコ先生による食生活エッセイ『食べ物連載 くいいじ』から、ヘルシー&お酒がすすむ3品を再現! 安野先生の豊かな想像力と食への探求心にあやかりながら、夏の家飲みを満喫しましょう。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。
漫画家ならではの豊かな想像力がきらめく、リアル食生活エッセイ。
『ハッピーマニア』『働きマン』などメガヒット作多数の漫画家・安野モヨコ先生が文章をメインに綴る一冊。圧倒的な画力と抜群のセンスをもって、多くのファンのファッションやライフスタイル、人生観に影響を与えてきた安野先生。漫画だけではなく、文章の才能もお持ちなのです。うらやましい!
『美人画報』(講談社)がおそらく安野先生にとって最初の文章たっぷり系イラストコラムだったと思うのですが、ご本人は連載開始時に「書くのが苦手」、「編集さんに借りがあるので書かざるを得なくなった」的なことをおっしゃっていました。
しかし、漫画のストーリーさながらにテンポがよく、海外での美容体験や華やかなショッピングライフをきらびやかに描く一方で、ダイエットの失敗や失恋、修羅場中の酷い食事についても包み隠さず書いたコラムは見事に大ヒット。私もさんざん読み倒したクチです。肌を引き締めたくて氷嚢で冷やすやつとか、真似しましたわ〜。
『週刊文春』に連載されていた『食べ物連載 くいいじ』は、自らを「喰いしん坊ではあるけれど『美食家』というものではない」と表する安野先生がふだん食べているもの、食べ物にまつわる思い出や考察を55編に渡って書いたもの。
中でも印象的だったエピソードをいくつかご紹介しますね。
・テレビアニメや漫画に出て来る食べ物に強く惹かれ、サザエさんが喉につまらせる“おまんじゅうじみた何か”にひたすら思いを馳せた少女時代の話。
・タイ料理が食べたくなり、原稿の完成をじりじりと待つ編集さんの目を盗んでこっそり店に予約を入れてそれを楽しみに一心不乱に仕事をするも、まさかの結果になった話。
・「お腹減った」が口癖で、起き抜けにパスタを2/3袋分ゆでて食べたり豆腐三丁をひとり占めしたりしていたのに、鍼灸院の先生に「あなたの体は小食仕様」といわれ驚愕する話。
・亡くなった義父上が最期に丹精した自家栽培のネーブルを食べて、照れ屋で心が広く、働き者だった義父上を思い出し涙が止まらなくなる話。
そして、一番好きなのはこの一編。
・「ずっと食べたい物がある」と挙げたものはまさかの「太陽」!
そう、空に輝くあの太陽です。どういうこと!? って思いますよね。
朝日よりは夕日の方がなんとなく美味しそうなのだが、とにかく濃厚なトロッとした舌触りはありありと想像できる。”
半熟卵の黄身のようでもう少し粘度が有るその太陽(夕陽)は当然スプーンでいただく。
飲み込む様にして口に含むとじんわりと熱が伝わって、その次に薄いまくの様な表皮がプチュンと割れる。口中に拡がるのは、例えて言うなら杏の濃厚なピュレだろうか。安野モヨコ /文藝春秋『食べ物連載 くいいじ』[食べたいもの]より
読んでいる方も食への想いが深まりそうな名作です。テーマごとのイラストも素敵ですよ。
『食べ物連載 くいいじ』ここを再現
◾お品書き
- 刺身のツマ
- 胡瓜
- ところてん
【食べ物連載 くいいじ再現レシピ①】刺身のツマ
ゴワゴワしているようでいて食べると緑茶のようなさわやかな味がして、ミネラルたっぷりと言う感じ。噛めば噛む程血液サラサラになって行くような気さえする。大好きだ!!この緑色の何かが!
(中略)
もしかしてこの「緑色の何か」も、勝手に海草だと信じていたけど実はとんぶりの茎部分だった⋯とか言う衝撃の事実が有るかも知れない⋯。
そう思うと居てもたってもいられず、お店の女の子をつかまえて聞いてみた。緑色の何かの正体を。
すると読者諸兄は「なはァーんだ」と思われるであろうけど「オゴ」と言う名の海草であった。
オゴ!!何その名前!!とつっこむより早く私は「あのーこのオゴだけおかわり下さい」と注文をしていた。
安野モヨコ /文藝春秋『食べ物連載 くいいじ』[茗荷と刺身のツマ]より
そして私も「オゴ」を存じませんでした。調べてみると、「オゴノリ」「ウゴ」とも呼ばれる海藻の一種で、ツマに用いるほか味噌汁に入れたりもされるらしいです。
スーパーでは見つけられなかったので、ネット通販で塩蔵品を購入しました。
<材料>
・オゴ
・大根
・茗荷
・ポン酢などお好みの調味料
<作り方>
① オゴは塩を洗い流して水に浸し(パッケージの通りにしてください)、さっと湯通しして冷水に放ってから水気を切っておく。
② 大根、茗荷はそれぞれ千切りにする。
③ がんばって和食屋さんぽく盛り付ける。
◾食べてみました
長らく酒飲みとして生きて来ましたが、刺身なしのツマだけで食べるのは初めてかも!
これはこれでいいものですね。香り高い茗荷、清冽な湧水を思わせるみずみずしい大根、そしてハリシャキッとした食感がたまらないオゴ。うんうん、これだけで充分飲めます。よーく冷やした純米酒でいっときました!
【食べ物連載 くいいじ再現レシピ②】胡瓜
そして安野先生のお気に入りの胡瓜レシピはこちら。
胡瓜の食べ方で私が一番好きなのは、色が深緑にしっかりと漬かったぬか漬けの古いのを、向こうが見えるくらいに薄切りにしてすり胡麻をふりかけ、夏の朝ご飯をいただくものである。
安野モヨコ /文藝春秋『食べ物連載 くいいじ』[胡瓜]より
・胡瓜のぬか漬け
・すり胡麻
<作り方>
① 胡瓜のぬか漬けを極薄にスライスする(私はスライサーを使用)。
② すり胡麻を振りかける。
◾食べてみました
食通の友人が教えてくれた、カルディの「熟成ぬか漬けの素」という便利なペーストを使い、古漬けもどきを作ってみました。胡瓜にまぶしてラップに包み置くだけとめちゃくちゃ簡単にしょっぱくて酸っぱい、いい感じのぬか漬けができました。カルディすごい。
ひらひらと薄切りにしたところへすり胡麻をぱらりぱらり。しょっぱさが中和され、胡麻の香りがアクセントになります。朝ごはんもいいけど、おつまみとしての完成度がかなりのものですよ、これ。ビールを合わせましたが、日本酒や黒糖焼酎あたりも合いそうです!
【食べ物連載 くいいじ再現レシピ③】ところてん
先生の食べ方はこんな感じだそう。
黒みつをかけてももちろん美味しいのだけど、私は生来の酢醤油派なので黒みつは人にあげて酢醤油をかける。
カラシが無かったので粉山椒をかけてみたところ意外と美味しい。
それで気を良くして今度はぽん酢をかけてみた。ぽん酢の甘味がどうかな、と心配したけれどこれまた美味しい。それにも粉山椒をかけていただく。
安野モヨコ /文藝春秋『食べ物連載 くいいじ』[ところてん]より
・ところてん
・酢醤油やぽん酢
・粉山椒
<作り方>
① ところてんはよく冷やし、ざるで充填水を濾して軽く洗い、器に盛る。
② 酢醤油やぽん酢をかけ、粉山椒を振る。
◾食べてみました
おやつや小腹満たしの印象が強いところてんですが、蒸し暑い時期にはいいおつまみになりますね。ぽん酢で食べたことがなかったので、この機会にチャレンジしてみました。すると、おやつからお惣菜チームに転身するではないですか! おもしろ〜い。そして粉山椒がさらにお酒のアテ感をアップ。ツルリと喉越しがよくお腹にもたれないところてん、この夏の酒卓常連になってくれそうです。
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知っている食材も少し目線を変えるだけで楽しみ方が増えると気づけた再現でした。安野先生の豊かな想像力とアレンジ力にあやかりたいです。
そして、このところ腹肉がどえらいことになっているせいか、無意識にヘルシーめなものばかり選んでいたと今気づきました。それはよかったのに、さっぱりしてて美味しいおつまみを食べる→食欲増幅→腹肉増幅というルートが出来上がったのはどうしたものか。久しぶりに『美人画報』を読み返して、ダイエット心を煽ってみましょうかね。へへへ。
※記事の情報は2022年6月7日時点のものです。
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