角田光代『今日もごちそうさまでした』の再現レシピ《肴は本を飛び出して58》

角田光代先生の食にまつわるエッセイ『今日もごちそうさまでした』の「正しい夏」の章より、「茄子入り餃子」と「湯葉とオクラの昆布和え」を再現! 家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:角田光代『今日もごちそうさまでした』の再現レシピ《肴は本を飛び出して58》

食とお酒を愛する作家の思い出の味から普段のごちそうまでがてんこ盛り!

◾こんな本です

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『今日もごちそうさまでした』は、幅広いジャンルの小説やエッセイなどを多数書かれている直木賞作家の角田先生が、四季の食をテーマに綴った食いしん坊エッセイで、ご著書のなかで私が最も繰り返し読み続けている大好きな1冊です。

実は、子供の頃はかなりの偏食だった角田先生は、20代後半から自分で料理をするようになり「30歳以降食べられるようになったものが、異様に多い」のだそう。

多くの野菜や魚などを口にすることなく、それでも健やかで立派な大人に成長された先生。その背景には、母上のおおらかなる愛情がありました。
  幼いころ、私は好き嫌いが多かったばかりでなく、食べ方がまるで酒飲みのおっさんであった。おかずとごはんをいっしょに食べない。酒も飲まないのに、まず好きなおかずだけ散らかすように食べ、そのあとごはんでシメるのである。
(中略)
  私の母は、おそらく成長期と戦中戦後が重なっていたせいで、食べものにたいへんな執着があった。戦中戦後の食糧難を経験した大人には、食べものを粗末にするな、ぜったい残すなと言う人が多いが、母はそうではなく、「好きなものしか食べないでよろしい」という考え方になったようだ。だから私が何を残そうが、酒飲みのおっさんのような食べ方をしようが、まったく文句も言わなかったし説教もしなかった。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[いくら愛]より
多くの家庭では子どもの好き嫌いは「直さないといけないもの」とされ、そのことで幼少期に親に叱られた記憶を持つ人は少なからずいることでしょう。

しかし、角田家の母上はそれをしなかった。どころか、食べにくい魚の身をほぐしてあげたり、ひと手間もふた手間もかけた料理を食卓に並べたりと、心をつくされたようです。

例えばこんなふうに。
  けっこうな大人になるまで偏食で、野菜が全般的に苦手だった私だが、茄子は子どものころから好きだった。おそらく、茄子は油と肉とセットになった調理法が多いからではないか。私の母親が茄子を用いてもっともよく作ったのが、茄子の挽き肉挟み揚げ。真ん中に切り目を入れた茄子に、挽き肉と炒め玉葱をまぜたものを挟んで、パン粉を付けて揚げたもの。肉が好き、油が好き、という私にとって、これはたいへんに魅惑的なおかずであった。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[茄子にん]より
(前略)我が家ではよくほうれん草のグラタンという料理が出たが、これまた、私は大好物であった。玉葱とベーコンとほうれん草を炒めて、クリームソースで絡め、チーズをのせて焼くだけの料理である。マカロニもごはんも入れない。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[だいじょうぶだとほうれん草が言う]より
  母の定番料理のひとつに、南瓜に鶏挽き肉と野菜のみじん切りを詰めて蒸し、ケーキのように切ってあんをかけて食べる、宝蒸しというものがあって、私はたぶんそれを教えてほしいと言ったのだが、面倒だったのか目新しいものを作ってみたかったのか、宝蒸しではなく、グラタンにしようと母が言ったのだった。
  南瓜の上部を切り取って、中身をくりぬき、そこに海老とマッシュルームのグラタンを詰め、チーズをのせて焼く、というような料理。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[せつなさと滑稽と南瓜]より
まるでお料理教室で教わるような料理ですよね。少女時代の先生がうらやましくなります。

そうそう、ネーミングも素敵な「宝蒸し」は、これまた読むほどにお腹が減る名作小説『彼女のこんだて帖』(角田光代/講談社文庫)にも登場していました。先生のなかでもきっと思い出深い一品なのかしら、なんて想像してしまいます。

本書には、これらの偏食時代に母上が作ってくれた家庭料理や、大人になって食べた国内外の旅先での味、自宅で作られるバラエティ豊かなおつまみ的料理などと、魅力的な品々が次々に登場し、胃袋が刺激されまくります。

特に、20代後半から食の扉を果敢に開け始めるようになってからの快進撃は、読んでいるだけで胸がすき腹も減るほどのお見事さ。

餃子の皮やピザ生地を自作し、たけのこも丸ごと茹でる、嫌いだったトマトやきのこを多彩な料理に使い、自家製いくらや白子のムニエルだってお手のもの。

「今日は何を食べようか」と迷った時にぱらぱらとページをめくれば、そこには必ず何かしらのヒントが見つけられる。そんな心強い1冊なのです。

『今日もごちそうさまでした』ここを再現

真似したい料理は多々あれど、今回は「正しい夏」の章から2品を再現してみました。

まずは夏野菜の代表格、茄子を使った餃子。
(前略)茄子入り餃子もとろーんであった。これは両方とも、茄子をがんがんにみじん切りし、塩をふってしばらく置いて、絞る。けっこうな量の茄子が消費される。茄子入り餃子を作るときは、挽き肉を買うよりもバラ肉を買って粗めのミンチにしたほうがおいしかった。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[茄子にん]より
そしてもう1品はオクラをさっぱりとした和え物に。
(前略)居酒屋でだれかが頼んだつまみ「湯葉とオクラの昆布和え」で、私の目はオクラに対し全開した。
(中略)
  私の目を全開にした居酒屋料理、家でもかんたんにできる。湯葉と、茹でて刻んだオクラ、塩昆布を和えてめんつゆをちょこっとまわしかけるだけ。さっぱり食べたいときはポン酢でもよろし。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[オクラの寛容]より

◾お品書き

  • 茄子入り餃子
  • 湯葉とオクラの昆布和え

『今日もごちそうさまでした』再現レシピ①|茄子入り餃子

茄子入り餃子
<材料>
・豚バラ薄切り肉
・茄子
・調味料(塩、ごま油、酒、醤油)
・餃子の皮

※詳しい分量や詳しい作り方は『今日もごちそうさまでした』の巻末に掲載されていますので、そちらでご確認ください。ご参考までに、今回は大きめの茄子1本と豚バラ肉100gで18個作れました。

<作り方>
① 豚バラ肉を包丁でたたき、みじん切りにする。
② 茄子はみじん切りにする。塩をふってしばらく置き、出てきた水分をしっかりと絞る。
③ ボウルに①と②、調味料を入れ混ぜ合わせる。
④ 餃子の皮で③を包む。蒸し餃子、焼き餃子、水餃子と好みの調理法でどうぞ。

■食べてみました
せっかくなので、3種類の茄子入り餃子を作ってみました。茄子を餃子に使うのは初めて。つなぎさえ入らない潔さにキュンとしました。材料が少ない分手間もかからないのが嬉しいですね。

3種類の茄子入り餃子①|焼き餃子
焼き餃子
焼き餃子断面
豚バラ肉からしみ出た脂を茄子が吸って甘みが増しています。ごま油で焼いた分、コクも加わってビールにぴったり! 私はこのまま食べましたが、酢+胡椒のタレを添えるのも合いそうです。


3種類の茄子入り餃子②|水餃子
水餃子
水餃子断面
大判の皮を使ってヒダなしで包み、ワンタン風に仕上げました。こちらはあっさりめの味と、とぅるんとした口当たりが楽しめます。同じ材料なのに、焼き餃子とはまったく違う料理みたいでおもしろい!

そのままだと少し物足りず、黒酢に醤油を少し垂らしたタレでいただきました。


3種類の茄子入り餃子③|蒸し餃子
蒸し餃子
蒸し餃子断面
焼き餃子同様に包んだあと、左右の端をくっつけて焼売のような形にしています。 皮で閉じ込めて蒸すことで茄子の甘みや皮のキュッとした食感が活き、豚バラ肉の脂がいい感じに全体に回っていて思わず「うんま!」と声が漏れました。これはタレなしでも充分おいしい。

今回の3種類のなかでは一番好みの味でした。もう一度作るなら蒸しタイプだけにするかも。

『今日もごちそうさまでした』再現レシピ②|湯葉とオクラの昆布和え

湯葉とオクラの昆布和え
<材料>
・オクラ
・湯葉(今回は生湯葉を使用)
・塩昆布
・めんつゆ、またはポン酢

<作り方>
① オクラはさっと茹でて刻む。湯葉も食べやすくカットする。
② ボウルに①と塩昆布を入れて和え、めんつゆまたはポン酢を適量回しかける。

■食べてみました
あー、これは実に酒飲み好みの和え物です。オクラだけでおかか和えや梅和えにすることはよくありますが、湯葉が加わることで一気に上等なおつまみになりますね。

また、塩昆布の塩気とうまみがなんとも絶妙。私はめんつゆをほんの少しだけかけました。塩昆布の味があるので、調味料は少量でよさそうです。

よく冷えた日本酒と一緒にいただくと、「大人になってよかった〜」なんてしみじみしちゃいました。

***

しっかり味の餃子と、さっぱりとした和え物。どちらも夏の家飲みにちょうどよくて、とてもゴキゲンな再現になりました。

最後にもう1品、近々再現してみたいカツオのおつまみをご紹介させてください。
(前略)厚めのそぎ切りにして、新玉葱をたっぷりしいて、その上に並べ、茗荷、生姜、ニンニク、大葉、あさつき、薬味をたくさん用意して醬油で食す。ポン酢で食べてもおいしいし、コチュジャンダレで韓国風にしてもおいしい。
  私が一時期凝ったのは、ポリ袋に玉葱とすりおろしたニンニクと鰹を入れ、醬油を入れ、もんで味を馴染ませて食べる漬け鰹。ニンニクの香りが強い牽引力になって食べやめられないおいしさ。

角田光代 /新潮文庫『今日もごちそうさまでした』[初鰹DNA]より
角田先生は初鰹でなさっていましたが、筆者は夏に安く出回るカツオで試してキュッと一杯やるつもりです。これも楽しみ!

※記事の情報は2024年8月20日時点のものです。
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