小川糸『洋食 小川』の再現レシピ《肴は本を飛び出して56》
小川糸先生の『洋食 小川』より、コーヒーゼリーを再現! ウイスキーでデザート飲みを楽しみました。家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。
心惹かれる手料理と移りゆく暮らしが綴られたショートムービーのようなエッセイ
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本書は、『食堂かたつむり』(ポプラ社)をはじめ、食欲と本能を刺激する食べ物が登場する作品を多々発表されている小川糸先生が、日記形式で1年分の暮らしを綴ったエッセイシリーズのなかの一冊です。
『洋食 小川』と名付けられた2016年版は(毎年、異なるタイトルがつけられているのです)、白ワインお屠蘇のおいしさに気づいたお正月から、らっきょう漬けに励むゴールデンウィーク、ぬか床に留守番をさせて決行した、愛犬ゆりねちゃんや夫のペンギンさんとの3ヶ月のベルリン暮らし、イタリア出張などを経て、12月に『洋食 小川』ことご自宅で大好きなコロッケを作った様子まで描かれており、「あー、それにしても、いろんなことのあった一年だった」と綴っておられます。
作中には『洋食 小川』のブランデーが隠し味に使われたピンポン球サイズのコロッケや、百合根のニョッキ、春の山菜のしゃぶしゃぶ、かぼす風味の自家製なめたけなど数々のヨダレものの料理が登場し、小川家の豊かな食生活のお裾分けをいただいた気分になれるのがなんとも嬉しい。来春は山菜のしゃぶしゃぶを真似してみたいな。
このシリーズでは、食の風景のみならず、小川先生の暮らし方、ひいては生き方を傍観できるのがファンにとってはたまらないところ。特に私めはほぼ同年代だけに、結婚も大きな仕事もせず多くの人と関わることもなくただただ漠然とその日を過ごすだけの自分と対極にある小川先生の人生を、まるで映画を観るような気持ちで追いかけています。
この本の続編では、コロナ禍が始まり、小川先生の家族の形が変化して…とさらに激動の日々が始まるのですが、そのなかにあっても「自分の居場所には、自分で仕込んだ味噌を置いておくと、それが、いつか帰る場所の目安になる気がするのです」(『昨日のパスタ』幻冬舎文庫[生きる力])と、すりこ木で豆を潰して味噌作りをしたり、近所で山椒の新芽を摘ませてもらってそれをたっぷりと入れたお鍋を堪能したりと、食に対するスタンスは変わらないように見受けられました。その芯の強さに、憧憬の念を感じずにはいられません。
ところで、今回久しぶりに『食堂かたつむり』を読み返してみたのですが、改めてすごい小説ですね。初めて読んだときから歳を重ねたせいか、終盤は涙どころか慟哭を堪えきれない状態で、それなのに食べてみたいものがたくさんたくさん登場するおかげでお腹はぐーぐー鳴るという本能むき出しな反応をしてしまいました。あの最後の宴を再現する企画があったら貯金してでも参加したいなぁ。
『洋食 小川』ここを再現
おつまみではなくおやつだし、実はコーヒーが苦手で普段はほぼほぼ飲まない私なのになぜかとても惹かれたひと品。「ウイスキーやラムを飲みながら、このゼリーを食べてみたい!」と天啓を受けちゃったんですよね。自分でも不思議です。
おまけ。
そろそろコーヒーゼリーの季節です。
作り方は、とても簡単。
濃いめにいれたコーヒー400ccに、ゼラチンパウダー一袋をとかして、冷蔵庫で冷やすだけ。
そうすると、かなりゆるゆるのゼリーができます。
食べる時は、はちみつと牛乳をかけて。
蒸し暑い日に、たまらないデザートです。
小川糸 /幻冬舎文庫『洋食 小川』[鎌倉へ]より
蒸し暑い石垣島にて、再現してみました。
◾お品書き
- コーヒーゼリー
『洋食 小川』再現レシピ|コーヒーゼリー
・濃いめにいれたコーヒー…400cc
・ゼラチン…1袋
・牛乳…適宜
・はちみつ…適宜
作り方は、引用の通りで。
■食べてみました
コーヒーゼリーを食べるのはおそらく人生で2、3回目。前にどこでどんなものを食べたかも覚えていませんが、プルッと弾力のある食感は記憶に残っています。
それとは違う、ふるり、とやわらかな口当たりが新鮮です。小川先生は「ほぼ液体に近いくらいの、ごくごくゆるーいゼリーが好き」とのこと。それよりはもしかするとちょっと硬めだったかも?
牛乳とはちみつを添えるのも初めてでした。生クリームよりさっぱりとしていて、シロップよりも風味があるはちみつの甘さがちょうどよく合いますね〜。
ふた口ほど食べたところで氷を浮かべたウイスキーをゆっくり飲むと、コーヒーのほろ苦さがウイスキーのまろやかさで薄くなっていくのがわかります。
この繰り返しがなかなかどうしていい感じではありませんか。
お腹はいっぱいだけどちょっと飲みたい、もしくはお腹いっぱいになりたくないけど何かをお供に飲みたい、なんて時におすすめしたい組み合わせです。暑い時期のお楽しみが一つ増えました。
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おつまみ大好き人間を自負する私が、まさかのデザートをチョイスした今回の再現レシピ。これで新たな世界がちょっと開いたような気がします。
でも次は、シリーズ内に登場したニンニク風味の胡瓜サラダを作ろうと決意していたり。こちらも間違いなくおいしいですよね。これからも四季折々に小川先生の味を追いかけたいと思います。
※記事の情報は2024年6月18日時点のものです。
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