ワインが次々に空いてしまうチーズの魔力!スイス&フランスの家飲み定番「ラクレット」
「ウチに飲みに来て。鍋にするから!」・・・日本の鍋物のように、たったひとつの料理だけでお客様をお招きできる料理は、他の国にもあるのでしょうか・・・世界各国の「一点突破家飲み料理」を探す旅、第1回はスイス・フランスの「ラクレット」です。
ハイジが食べたあのチーズで家飲み!
自宅に人を呼んで家飲みをしたい。でもいろいろ料理して準備するのは億劫だなぁ・・・そんなとき日本には鍋物という強い味方があります。一種類だけ、それもほとんど手間はかかっていないのにご馳走として場を持たせてしまうのだからたいしたものです。
いまや一人で日本のプロ野球を背負っている感のある大谷翔平選手のごとき一点突破家飲み料理、日本代表が鍋料理だとすれば、他の国にもそれそれぞれ自慢の料理があるに違いありません。そのなかでいま、日本でも静かに注目されはじめているのが、スイスやフランスの定番料理「ラクレット」です。
ラクレットは、スイス南西部のヴァレー州を産地とするチーズの名前です。そのチーズを溶かしてジャガイモなどにかけて食べる伝統的な料理も「ラクレット」と呼ばれます。スイスのチーズ料理といえば「フォンデュ」がよく知られていますが、現地の人によればフォンデュはどちらかというとレストランで注文するもので、家庭のチーズ料理といえばまずラクレットなのだそうです。
ヨハンナ・シュピリ作の「ハイジ」。山の家にハイジが連れてこられて間もないころ、お爺さんは、金色のチーズの固まりをあぶって溶かし、その溶けたところをナイフで削って丸パンにかけた昼ご飯を作ってくれます。その場面は宮崎アニメ「アルプスの少女ハイジ」でも忠実に再現されていて、日本の子どもたちの食欲中枢をわしづかみにしたのでした。「あのチーズが食べたい」。その思いから長い月日が過ぎ、ついに、「あのチーズ」ではないかと言われているラクレットが、日本国内でも手軽に手に入るようになりました。
日本にもブームのきざし、ラクレットチーズ
料理の「ラクレット」は、茹でたり蒸したりしたじゃがいもに、熱して溶かしたラクレットチーズをかけて食べるのが基本。じゃがいもの他に、お好みの野菜も一緒に食べます。また、ハムやソーセージも一緒に食卓に出します。それだけです。そんなに簡単なのに、ラクレットチーズの持つ芳醇な香りと味のおかげで、とても豊かな気持ちになれるのがこの料理の魅力です。
世界チーズ商会株式会社(本社大阪市)のアンテナショップ「フロマージュ天満橋」にお話をうかがうと「ここ3年ほどのあいだに、確かにラクレットはずいぶん伸びていると思います。レストランやワインバーを経営されている方が大きな固まりを半分、一個と買われていくようになりましたし、個人の方で、食べ方をお聞きになりながらお試し的に買われる方も増えてきました」(磯谷店長)とのこと。百貨店やスーパーでも、ラクレットを置くところが増えてきました。
楽しい専用グリル。フライパンでも充分OK
売っているラクレットチーズは、あらかじめスライスされているタイプのものもあれば、より本格的っぽくかたまりをカットされたもの、デパ地下や専門店では量り売りもされています。皿にならべただけですでに、少しクセのある、でも大いに食欲をそそる香りがただよいます。
ラクレットを食べるための専用の器具である「ラクレットグリル」というものがあり、いまでは日本国内でも簡単に買えます。4人用ぐらいまでの小さなものだと1万円以下。販売会社に注文してみると、こちらも最近はしばしば品切れ状態。ラクレットの人気ぶりがうかがえます。
この写真の4人用のラクレットグリルセットの場合、卓上たこ焼き器ぐらいの大きさ。たたずまいもまさに西洋のたこ焼き器といった感じです。野菜を温める天板が大理石でできています(石造りなのはこの製品の特徴みたいで、他の製品は金属のモノもありました)。チーズを入れて溶かす「マイフライパン」とヘラが人数分、各4個ついています。
フランスのご家庭ではこのラクレットグリルが一家に一台の必需品となっているようですが、このグリルがないとダメかというとそんなことは全くなく、卓上コンロとフライパンで充分に楽しめます。
芳醇な味と香り。辛口の白ワインと一緒に
ジャガイモは茹でてもいいのですが、蒸し器で蒸すほうが、あまり調理時間を気にしなくて良いので便利です。皮つきのまま蒸すといい雰囲気に。
ラクレット、ジャガイモ、フランスパン、温野菜。それから一緒に食べるハムやソーセージ、ピクルスなどを用意すれば準備完了です。
スライスしたラクレットを「マイフライパン」に載せて、グリルの下段に。すぐに部屋じゅう美味しそうな香りで満たされます。1〜2分でチーズはすっかり溶けます。石板の上はじゃがいもや野菜を温めるところ。石だからこげつくこともなく、それでいてしっかりと中まで温まってくれます。
いよいよ、石の上で温めていたジャガイモの上にチーズをかけます。見つめるみんなの目はあの時のハイジと同じ真ん丸です。このマイフライパンがなかなかスグれていて、傾けるだけでチーズがつるんとかかるようになっています。
ほくほくのジャガイモと、少しクセのある濃厚なチーズ。食べ始めたら、もう止まりません。次から次とマイフライパンが投入されることになります。ラクレットチーズのクセは、フランスのコンテよりもやや控えめな感じで、チーズ初心者もきっと好きになってしまうちょうど良いころあいです。
ラクレットと一緒に楽しむ飲み物は辛口の白ワインというのが定説。ラクレットの産地と同じスイスのヴァレー州産や隣接するフランスのサボア産が最適なのかもしれませんが、他の地域のワインでも全く問題なし。リーズナブルなテーブルワインで充分です。また、赤ワインでもたいへんおいしくいただけます。牧場の干し草を感じさせるチーズの素朴で濃厚な香りで、ワインのボトルがあっという間に空いてしまいます。
じゃがいもだけでなく、薄く切ったバゲットにラクレットをかけてもなかなかいけます。ラクレットの「台」としてパンはジャガイモよりも軽いので、チーズをたっぷり食べて、たくさんワインを飲みたいという人にはこちらのほうがおすすめかも知れません。
夜もふけてきて、熱するのが面倒になってきたら、溶かさずにスライスしただけの常温ラクレットをバゲットといっしょに楽しむのもまた、違った味わいがあっていい感じです。
あれこれ料理している時間がない人も、腕前に自信がない人も。野菜をただ茹でたり蒸したりするだけで家のパーティーを成立させてしまうラクレットのパワー。ラクレット家飲みは、これから一層注目されていきそうです。
※記事の情報は2017年4月25日時点のものです。