東海林さだお『ショージ君の「料理大好き!」』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㉓》
東海林さだお先生の『ショージ君の「料理大好き!」』の中から、とびきりおいしそうな3品が登場! 家飲み大好きな筆者が、「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みた~い!」という夢を叶えるべく、憧れのレシピを再現します!
食エッセイの大家による料理チャレンジ集は40年経っても色褪せず
◾あらすじ
漫画家としてもエッセイストとしても類い稀なる才能を発揮し、特に食エッセイは「丸かじりシリーズ」をはじめ多くのロングセラー作品を生み出し続けている東海林さだお先生。
ショージ君という等身大のキャラクターが親近感を呼ぶ漫画やイラスト、豊かな着眼点と緻密な描写、抜群なユーモアのセンスですらすらと読ませてくれる文章、いずれも私にとって長年の憧れの対象です。
初めて東海林先生のエッセイを読んだのは、たしか小学校高学年の頃で、実家の父が愛読していた週刊誌か月刊誌でだったと思います。詳細は覚えていないのですが、「大人もこんなにふざけた文章を書いていいんだ!」と衝撃を受けた記憶があります。今思えば、それが文章を書く仕事を意識した始まりだったのかもしれません。
『ショージ君の「料理人大好き!」』は、1980年前後に『月刊太陽』で連載されていたものをまとめた一冊。1981年に単行本が発刊され、1984年には新潮社、2014年には文春文庫で文庫化されています。私はひとり暮らしを始めた大学生の頃に新潮社版の文庫本を買って、数えきれないほど幾度も読み返してきました。料理に対する好奇心と行動力を身につけるきっかけになった、とても大切な一冊です。
肝心の内容はと言いますと……。
「料理大好き! 特に魚をおろすのが」というショージ君、出版社社員で料理はモヤシいため一筋という斎藤青年(通称・モヤシの斎藤)、自宅の庭にカマドを構えてハムを自作するタイプの坂本カメラマン(通称・カマドの坂本)の3人が、ジャンルレスな料理に挑戦する様子を詳らかに書いた一大料理記。
汗びっしょりになりながらウナギをさばいて、そのムチムチとした白い肉に不思議な興奮をおぼえたり、24種類のスパイスと大格闘しながら本格カレーを作ったり(40年以上前に!)、ちくわ・かまぼこ・はんぺん・さつま揚げを自作するも悔し涙を呑んだりと、25回に渡る奮闘&大健闘の様子が掲載されています。失敗も包み隠さず記録されているため、実用書としてもかなり優秀。写真は一切なく、ところどころにはさまれたショージ君のイラストで完成品を想像するのが今の時代には逆に新鮮です。
◾ここを再現
今回再現するのは、「三分クッキングの巻」からの3品。
ロースト・ビーフやにぎり鮨、手造りソーセージ、ラーメンなどといった手のかかりまくる料理が多い本作の中では、比較的ライトなメニューが登場する章です。
「今回は全然凝らない方の料理に挑戦してみたいと思う」と、3人+料理指南役の真砂のおやじさんがそれぞれレシピを持ち寄って披露するというもの。テーマは「頭脳の働きが極端に活発でない人でも、チョットの間にできる料理」だそう。言い方が優しいな〜(笑)。
全7品紹介されているのですが、頭脳の働きが極端に活発でない私が選んだのはこちらの3品。
◾お品書き
- ホーレン草腐乳いため(カマドの坂本)
- コンニャクいり煮(モヤシの斎藤)
- 牛肉シソ葉いため(ショージ君)
【ショージ君の「料理大好き!」再現レシピ①】ホーレン草腐乳いため
これは単なるホーレン草のいためものなのだが、そこに腐乳なるものを加えるところがミソであるという。
腐乳というのは中国料理に使うもので、豆腐を塩漬けにして発酵させたものである。
豆腐の塩からとでもいうべきしろもので、独特の恐ろしい臭いがし、そこのところが好きな人にはたまらなく、嫌いな人にはたまらなくいやという一種の珍味である。
ぼくはこれがたまらなく好きで、アツアツのゴハンにちょびっとのせて食べるとこたえられない味になる。
(中略)
さて坂本は、中華鍋に油を投入。
そこにニンニクのみじん切りを入れ軽くいためる。
「ケムが出たとこでザク切りのホーレン草を入れます」
「ハイ」
「ホーレン草は、クキの方から先に入れます」
「ホウ?」
「つまり、クキの方はどうしてもいたまりかたが遅いからです」
「ナルホド」
「クキ先、葉あとの法則」といって、これはどんな葉物類にもあてはまる法則だという。
ホーレン草全投入と同時に腐乳及び腐乳汁を大サジ一杯ほどかける。
ホーレン草がいたまったらショウユを少々ふりかけてできあがり。東海林さだお /『ショージ君の「料理大好き!」』<三分クッキングの巻>(文春文庫)より
私もショージ君と同じで腐乳好きです。でも自分で買ったことはなかったなぁ。
今回初めて中国食材の店で購入しました。そのままでちびっと舐めると、うん、やっぱりこのクセ好きだ。と、はりきって多めに入れたらしょっぱくなりすぎてしまいましたが…。あと、最後の醤油もふり忘れていたことに今気づきました。本家に倣って失敗も隠さず伝えます。
それにしても、腐乳は炒め物の調味料としてはかなりよい手札です。本編中でも実食の感想として「単なるいため物とは思えない高級料理」というコメントがありましたが、まさにその通り。複雑な味と香り、発酵食品ならではのコクが加わって、わずか3分でできる料理とは思えないのです。ほかの野菜でもやってみようっと。
お酒は紹興酒をストレートで合わせました。間違いないでしょう。
【ショージ君の「料理大好き!」再現レシピ②】コンニャクいり煮
とりあえず胸のポケットからメモを取り出す。
コンニャクを、まな板にのせ、包丁の腹でペタペタとたたく。
「それはどうして?」
「ンート……」
と、アンチョコを取り出し
「こうすると、味がよく滲みるわけです」
次に、たたいたコンニャクを、包丁を使わずに指でちぎる。
「それはどうして?」
「ンート……」(後略)東海林さだお /『ショージ君の「料理大好き!」』<三分クッキングの巻>(文春文庫)より
しかしあまりにも引用が長くなりそうなので、作り方を要約してみました。
<作り方>
① コンニャクの表面を包丁の腹でたたき、食べやすいサイズに指でちぎる。
② 1を下茹でした後、フライパンでから煎りする。
③ から煎りした後さらに油を加えて炒め、3mm幅に刻んだ昆布を入れて一緒に炒める。
④ 水、醤油、酒を入れて煮上げ、最後に唐辛子とみりん、カツブシを入れる。
⑤ 仕上げに煎りゴマをふりかける。
◾食べてみました
「三分クッキング」のはずが20分はかかったという斎藤青年の力作。なぜみりんを最後に加えるのか謎だったりしますが、味わいはとてもよかったです。コンニャクと刻み昆布という、地味なようで旨み&風味たっぷりコンビの安定感たるや。そこに唐辛子やゴマ、カツブシの香りが加わって、酒を進ませてくれます。常備菜にしたくなりました。純米酒のひやを添えましたが、これからの季節ならぬる燗や熱燗もいいでしょうね。
【ショージ君の「料理大好き!」再現レシピ③】牛肉シソ葉いため
牛肩ロースを百五十グラムほど購入。
これで四人前できるので一人前約一〇〇円ということになる。
「エー、フライパンにバターを大量に入れます。あとでこの煮汁もゴハンにかけて食べるわけですから」
バターが溶けたら、三センチ四方ぐらいに切った牛肉を投入。
色が変わるか変わらないうちに、酒、ショウユをふりかけ、味の素もふりかける。
と、同時に、一枚を三つに切ったぐらいの大きさのシソの葉を入れる。
シソの葉は、約十五枚。かなり大量であるがこのぐらい入れないとおいしくない。
入れたらすぐに火を止める。
これでできあがり。東海林さだお /『ショージ君の「料理大好き!」』<三分クッキングの巻>(文春文庫)より
この一品は、若い頃から幾度となく再現してきた大のお気に入りです。本当に簡単で美味しい! 牛肉をバター醤油で炒めるだけで優勝クラスなのに、そこにシソの爽やかさが加わってさらに上のクラスにいっちゃう感じなんですよ。ショージ君がいうように、思い切って大量のバターを使わないと後悔します。30〜40グラムはいっときましょう。
ご飯ものではありますが、このバター醤油や牛肉の味がしみたご飯はもはやおつまみ! よーく冷えたビールを添えて大正解でした。
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今回の3品は、家飲みに慣れたみなさまならあっという間に作れるであろうものばかりですが、前述したように、ほかにも真似してみたくなるメニューが多数掲載されています。それぞれにキャラクターが立ったお3人の奮闘ぶりをまずは「読むアテ」として楽しんだら、次はご自身でも憧れの料理に挑戦してみてはいかがでしょうか。
※記事の情報は2021年9月7日時点のものです。
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