パリッコ『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㉕》
今回のテーマは「カイワレダイコン」! 脇役だと思って侮るなかれ。酒場ライター・パリッコさんの著書『つつまし酒』から、天才的なおいしさのカイワレ料理5品が登場。これを読めば、カイワレがごちそうになること間違いなし。家飲み大好きな筆者が、「小説やエッセイ、漫画に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。
無限に湧き出す酒アイデアに心躍る、珠玉の家飲みバイブル
◾こんな本です
私が敬愛してやまない酒場ライターのパリッコさんが、コロナ禍で酒場にほとんど通えなくなった約1年の間に書き綴ったウェブ連載をまとめたエッセイ集。
酒場が、ひいてはお酒までもが目の敵のようにされてしまったこの状況を受け、「はじめに」の中でパリッコさんは「皮肉的に『令和禁酒法』などと呼ばれている今の状況にあっても、僕は決して、日々のお酒の喜びをあきらめるなんて選択はしないし、限られた条件のなかでこそ、より貪欲に楽しんでやろうと燃える」(一部抜粋)と言い切っておられます。泣けるほど頼もしい! 家飲み派のみなさまなら、私と一緒に首がもげるほど賛同してくださることでしょう。
酒場を封じられた酒場ライターは羽をもがれた鳥同然かと思いきや、飛べないなら歩けばいいじゃない、なんなら道具を使って移動するのも楽しいし! とばかりに、あの手この手で自ら作り出した「酒の場」を堪能しまくるパリッコさん。その一例を挙げてみると……。
「これぞ大人の秘密基地!『マイ酒場』を作る」
「『ベランダピクニック』と『ベランダ野宿』」
「今夜は絶対、冷凍餃子!」
「グラグラ×ギンギン!温度差飲み」
「どんぐりで飲みたい」
「ひとり用炊飯器は最強の家飲みツール!?」
「たこ焼きとお好み焼きの形、逆じゃだめ?」
それ絶対楽しいやつ!と、タイトルだけでグイッと引き込まれちゃう「つつまし酒」が46通りも収録されています。
どんなシチュエーションでも「これ、サイコーっすね」とゴキゲンを見つけるのが上手なパリッコさんならではの鋭くも優しい目線と、飲みやすいお酒のようにすうっと体に入ってくる文章がそれこそサイコー。
46話の中には、家飲みと時折の店飲みの話に加えて、サブタイトルにもなっている「あのころ、父と食べた『銀将』のラーメン」という一編も収められています。数えきれないほどの文章を世に送り出しているパリッコさんが、初めて亡くなられたお父さんについて書いたお話で、これがとってもいいんですよ…。
幼少期に両親と行っていた小さな中華屋さんへ大人になったパリッコさんがひとりで赴くのですが、思い出から実際に店で飲食するシーン、そして再びの回想と、まるで小説のような流れに読み入って、気づけば目が濡れている。
ぜひ、瓶ビールを傍らに読んでいただきたいです。そして、読み終わった後に改めて表紙を見てみてください。谷口菜津子さんの描いたタヌキの後ろ姿にもうひと泣きくらっちゃいますよ。
◾ここを再現
今回再現するのは、「カイワレ日記」からの5品。
私の中では、パリッコさんといえば刺身やお肉、カレーなどでグイグイ飲む健啖家のイメージが強め。ゆえに、「カイワレの存在意義がわからなかった」そうですが、そのことを告げた飲酒ユニット「酒の穴」の相方であるライターのスズキナオさんから「私は野菜のなかでカイワレがいちばん好きかもしれないほどです!」と激昂されてしまいます。ナオさんはとても温厚な方なので、これはよっぽどのこと。その後も周囲にカイワレ愛好家が潜んでいたりして、ついにパリッコさんはカイワレに向き合うことに。そのカイワレ黎明期の一週間を記したのがこの章というわけです。
その夜、スーパーでおそるおそる買ったカイワレを食べてみた僕が現在どのような状態にあるかというと、「家の冷蔵庫にカイワレのストックがないと不安で不安で仕事も手につかなくなる」という、もはや「カイワレ中毒」。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
初日の対面はこんな感じだったようです。
帰宅し、1パックを雑に刻み、なんとなくポン酢、マヨネーズ、たっぷりのごまとあえてみる。失礼ながらカイワレってほとんど体積のないようなものだと思っていたので、けっこうなボリュームになることにまず驚く。酒のつまみのひと皿としてちょうどいい量。
食べてみる。まず肝心の辛味に関してだが、これが適度でむしろうまい。(中略)シャキシャキ、ザクザクとした食感も心地いい。フレッシュな青さとマヨポンの相性も抜群。そして大好きなごまがこんなにもたっぷり摂取できるのも嬉しい発見。「ごまを食べるならカイワレ」という知見を得た。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
かくして、「カイワレとゆで鶏のごまあえ」「カイワレのハム巻き カラシマヨ添え」などとカイワレおつまみに没頭していくパリッコさん。その記録の中から、5品を真似してみました。
◾お品書き
- カイワレとハムとごまのマヨあえ
- カイワレのおでん
- カイワレと湯引きまぐろのわさび醤油あえ
- カイワレとサーモンとクリームチーズのカルパッチョ
- カイワレ納豆
【つつまし酒カイワレおつまみ再現レシピ①】カイワレとハムとごまのマヨあえ
・カイワレ
・ハム
・マヨネーズ
・ごま
・唐辛子
ハム巻きはうまかったが、いちいち巻いて楊枝でとめるのが若干面倒だ。そこで、ハムをカイワレと同じくらいの長さの細切りにして、マヨネーズを加えてあえてしまう。そこに好物のごまと唐辛子もプラス。これまた絶品! 自分はハム巻きじゃなくこっちでいいな。とにかく、カイワレはうまい。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
たまに居酒屋でもあるカイワレのハム巻き。たしかにとてもおいしいのですが、ハム1枚ないし1/2枚をひと口分で使ってしまうというのは貧乏性の私にとって心臓バクバク案件。なので、このパリッコさんのアイデアが救世主になってくれました。ちまちまとつまめるし、ごまや唐辛子のアクセントもよく効いています。
【つつまし酒カイワレおつまみ再現レシピ②】カイワレのおでん
・カイワレ
・おでん汁
作りかたは、カイワレ適量をマグカップに入れ、そこにグラグラに沸かしたおでん汁を注ぐだけ。こんな簡単なのに、カイワレがとろとろになってこれまた良い。温めたことで風味が増したせいか、「お前、野菜だったんだな」とあらためて実感。カップ酒と合うなー。カイワレうまいなー。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
パリッコさんは前日にお家でたっぷりと仕込んだおでんの汁を使ったそうですが、うちにはそんな素晴らしいものはないのでコンビニに頼りました。ありがたやコンビニ。手順ともいえないほど簡単至極な作り方なのに、立派な一品として成立しています。カイワレは生食上等なので、加熱具合に気をもむこともなくできるのが嬉しいですね。できたての少しシャキッと感が残ったところも、時間が経ってとろとろが進んだものも両方おいしー。1パックぺろりいけちゃいます。
【つつまし酒カイワレおつまみ再現レシピ③】カイワレと湯引きまぐろのわさび醤油あえ
・カイワレ
・まぐろの刺身(湯引きにする)
・菜種油
・わさび、あるいは柚子胡椒
・醤油
SNSで教えてもらったなかでも屈指の食べたさだった「湯引きしたまぐろ、菜種油、わさびあるいは柚子胡椒、醤油とあえる」をやってみる。カイワレ料理にここまでの労力をかけるようになるなんて、かつての自分からは想像もできなかったことだ。
で、食べてみるとなるほど、こりゃあごちそう!(中略)カイワレ is うまい。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
刺身売り場に行くと「生まぐろの炙り」なるものが売られていたので、湯引きにする手間をサボってこちらを購入。少し加熱することでさっぱりとしたまぐろに、カイワレやわさびの辛味がよく合います。うちの実家では刺身のつまにカイワレを使うことも多かったのですが、混ぜてみると小粋な小料理屋の一品みたいになって格上がりしますね。うん、たしかにこりゃあごちそうだ。
【つつまし酒カイワレおつまみ再現レシピ④】カイワレとサーモンとクリームチーズのカルパッチョ
・カイワレ
・サーモン
・クリームチーズ
・レモン
・オリーブオイル
・塩、コショウ
今日はついに本気を出す。カイワレがどうもクリームチーズと合う予感がしている。(中略)
スーパーで、サーモン、クリームチーズ、レモンを買ってくる。サーモンをカイワレによりなじむように細切りにし、カイワレとざっくりあえる。そこにちぎったクリームチーズを散らし、オリーブオイルと塩胡椒、レモンをたっぷり。
実際、こんなものがうまくないわけがなかった。一瞬、「おれって天才?」と調子にのりかけたが思い直す。天才なのはカイワレだ。カイワレは天才。パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
カイワレ天才説まで飛び出した一品。ハーブほど個性が強すぎず、それでいてしっかりとした存在感のあるカイワレが、サーモンやクリームチーズといったこっくり味の素材をうまいこと引き立てています。カルパッチョ風のシンプルな味付けがなんとハマること。
【つつまし酒カイワレおつまみ再現レシピ⑤】カイワレ納豆
・カイワレ
・納豆
・納豆のタレ
・ごま
・ごま油
衝撃だった……。納豆になにを混ぜてつまみにするのが正解か? 僕が一生かけて探し求めようと覚悟していたその問いの答えは、なんと「カイワレ」だったのだ! 納豆と混ぜたことによる、火を通したときにも似たカイワレのとろとろ感。かつ、しっかりと残るフレッシュなシャキシャキ感。そのふたつのいいとこどりなのが「カイワレ納豆」だ。適度な辛味も納豆との相性が悪いはずがない。うまい、うますぎる! カイワレ、うますぎる!パリッコ /『つつまし酒―あのころ、父と食べた「銀将」のラーメン』<カイワレ日記>(光文社)より
日記の最後をまとめたのは、生涯のテーマであった納豆のお供問題に終止符が打たれたお話。私も初めて納豆にカイワレを混ぜてみたのですが、なぜこれまで試さなかったのかと思うくらい相性がいいです。納豆のねばねばに絡まれたとて失われることのない爽快な食感、そして豆の甘みをほどよく抑える辛味。ほんと、「カイワレ、お前だったのか…」と言いたくなりました。
***
これまで添え物扱いしてきたカイワレに謝りたい気持ちでいっぱいです。
いやほんと優秀な家飲み素材ですよ、奴ってば。旬も関係なく通年買える上に1パック60円ほどとお財布に優しい。どんなスーパーでもほぼほぼ売っている。完の璧ではありませんか。今や私も週に何度かはカイワレ補給が欠かせない身になりました。
カイワレ日記の文末は、ほぼ毎日カイワレへの賛辞で締めくくっていたパリッコさん。 「天才なのはカイワレだ」とのことですが、そのカイワレの秘めたるポテンシャルをあの手この手で花開かせたパリッコさんもまた天才で間違いありません。
パリッコさんがカイワレに眼を開くきっかけを作ってくださったスズキナオさん(カイワレ神)にもこの場を借りてお礼申し上げます。カイワレ is すごい。
※記事の情報は2021年11月2日時点のものです。
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