玉置標本『出張ビジホ料理録』の再現レシピ《肴は本を飛び出して㊱》
玉置標本先生の『出張ビジホ料理録』の主人公の趣味は、出張先の名産品をビジネスホテルでこっそり作って食べること。何と楽しそうな趣味なのでしょう。というわけで今回は、山形県の名産品「芋煮」をトラベルクッカーで調理して、お酒と一緒に味わってみました! 家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。
これぞ究極のビジホ飲み!? 家でも真似したくなるミニマムクッキング。
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玉置標本さんは「デイリーポータルZ」などのウェブ媒体を始め多方面で活躍されているフリーライター。私が憧れている書き手のお一人で、その探究心と行動力、そして仕上げの香辛料よろしく駄洒落を散りばめた読みごたえのある文章に毎度感嘆させられています。
中でも、『育ちすぎたタケノコでメンマを作ってみた。 実はよく知らない植物を育てる・採る・食べる』(家の光協会)という著書には度肝を抜かれました。
コンニャクの芋を植えるところから手作りに挑戦してすんごい花を咲かせて芋を収穫し、気の遠くなるような作業をした結果まずいコンニャクを完成させてしまうも後に見事リベンジしたり、「渋い未熟なクルミで、真っ黒い酒(ノチーノ)を仕込みたい」と全身が拒絶反応を起こすほど渋いクルミをあの手この手でスイスイ飲めるまでに仕上げたりと、ひと言でいうと「よーやるわ!!!」(全身全霊の尊敬を込めて)なレポートがものすごい濃度で並んでいるのです。飲みながら読んでいたのですが、途中で酒を足すのも忘れるほどぐいぐい引き込まれました。
私を含む一般的な人なら「ちょっと気になるな、いつかやってみたい(多分やらない)」「この作業好きかも(2回で飽きたけど)」というようなことを、地球の裏側くらいまで深〜〜〜く掘り下げるのが玉置さんというお方。しかもニッコニコと楽しそうに! いいな、カッコ良すぎるな。
そんな玉置さんが2022年に発行した同人誌が『出張ビジホ料理録』。
出張先で名産品を食べたいけれど
食事はどうしても一人がいいから
ビジネスホテルの部屋でこっそり
持ち込んだ道具で料理して食べる玉置標本 /『出張ビジホ料理録』より
面白いのが、福田空は性別や年齢、外見などが定められていないという設定。「すべて読む側の印象にお任せします」とのことで、確かに読み進むうちに自分の中で「こんな感じの人かなぁ」と人物像ができてくるのがユニークな体験でした。
さらに、全8編すべて異なる漫画家やイラストレーターが挿絵を描いているため、なんと本の中に8通りの福田空が登場するのです。その詳細はこちら。
※( )内が挿絵を担当した方。
01:海岸で捕まえて作るホタルイカの釜揚げ(鶴谷香央理)
02:アメ横の地下食品街から生まれたトムヤムシャコ(川崎タカオ)
03:魚屋が教えるホヤを好きになるフルコース(オカヤイヅミ)
04:スーパーで麺とタレを買って作る伊勢うどん(スケラッコ)
05:セイコーマートで憧れの朝食バイキングごっこ(銅☆萬福)
06:ビジホで開催された日本一小さな芋煮会(ラズウェル細木)
07:小麦粉食文化の伝承者に教わる手打ちうどん(渡辺なお)
08:佐渡島の地元食材で作る日替わり定食(犬ん子)
なんて豪華なラインナップ! 私がこれまでこの連載でご紹介させてもらった大好きな作家さんたちも参加しておられます。
・オカヤイヅミ先生
・スケラッコ先生
・ラズウェル細木先生
「この空は私の想像に近いな」「えっ、そうきますか!?」「あー、そういうことしそうよね」などとさまざまな空がいて、本編と同じくらい楽しませてくれました。
『出張ビジホ料理録』ここを再現
形は違えど、電圧切替式の電気調理器で室内での調理(主に温める、煮る、蒸す)ができるもので、焼いたり炒めたりはできないため煙が出る心配はなく、出先での調理にも使えるのが重宝。
ビジネスホテルの室内で調理をすることについて、空は「一切の痕跡を残さず、誰にも迷惑を掛けず、こっそり調理して食べる」のが流儀だとしています。重ねて、「非常識と思われかねない趣味だからこそ、常識的な行動を心掛けている」とも。いつか私も出張先で真似するときはこのことを忘れないようにします。
このトラベルクッカーを使い、「ビジホで開催された日本一小さな芋煮会」を再現してみました。
私の中で行ってみたい土地No.1、山形県の秋の風物詩である「芋煮」。本来は河原でさまざまなグループが集って大きな鍋で作ってワイワイ食べるものだそうです。うう、夢の光景。それをごくごくミニマムなサイズでやってみるのが今回の再現です。
◾お品書き
- 芋煮(締めのうどん付き)
【出張ビジホ料理録再現レシピ】芋煮
「マルジュウ芋煮のたれ」と幾度も読んでいたのに、 何も疑わずに買っていたのは「味マルジュウ」という万能たれの方でした…。前に山形在住の友人に送ってもらってめちゃ気に入ったのが記憶に根付いていたのでしょう。
原稿チェックをしてくださった玉置さんのご指摘で気づくというとほほぶり。「味マルジュウで芋煮を作る人も多いです」とフォローしてくださった玉置さん、お優しい。
正しくはこちらの商品ですので、みなさまはどうかお間違えなきよう。
山形での出張で、見事な山形弁を操る得意先の石井さんから芋煮について5時間もレクチャーされた福田空(もちろん仕事はしながら)。
翌日の芋煮会に誘われるも、おいしいものを食べている様子を誰かに見られることを苦手としている空はそれを断り、芋煮の作り方を伝授してもらいビジホでの調理に挑むのでありました。
大人数でワイワイ作るのも楽しいだろうが、こうして一人で黙々と挑むからこその喜びだってある。この気持ちを誰かにわかってもらおうとかは思わないけど、一人だからこそ追求できる極上の楽しさも存在するのだ。玉置標本 /『出張ビジホ料理録』 [ビジホで開催された日本一小さな芋煮会] より
・牛肉(迷ったら高い方、と石井さん。空は山形牛のこま切れを奮発)
・皮付き里芋
・白コンニャク
・長ネギ(1cm幅の斜め切り)
・茹でうどん
・「マルジュウ芋煮のたれ」※現地で愛用されている芋煮の味付け用タレ。Amazonなどでも購入できます。
・日本酒(空は山形の地酒「出羽桜」の特別純米缶)
①里芋の皮をなるべく薄く剥き、一口大に切って水と共にトラベルクッカーに入れて下茹でする。その際、芋煮のたれを加えて下味をつけておく。
②里芋を煮ている間にコンニャクの準備。味が染みやすいように包丁ではなく指でちぎるように切り、水に浸けて臭みを抜いておく。
③里芋に箸を刺してみて煮えていることが確認できたら、牛肉、コンニャク、追加の芋煮のたれ、日本酒ひと垂らしを加えて煮る。
※長ネギは締めのうどん用に少し残しておくと幸せになれます。
◾食べてみました
手順としてはとても簡単。ビジホでも無理なく作れそうです。
具や味付けに関しては山形県内でも地域によってあらゆるバリエーションがあるようですが、これは空が伝授された「石井さん経由のプリミティブな芋煮」。
牛肉に関しては、たまたま地元・石垣島の銘柄牛「石垣牛」が到来したので焼肉用だけどそれをちょいと拝借。写真には写っていませんが、オージービーフの薄切りも追加しました。
不揃いな形になったコンニャクにもちゃんと味がついているし、くたっとなった長ネギもいいつまみ。そしてその合間につまむ牛肉はやはりご馳走の位置付けですね。旨みを煮汁に分けてあげたとしても十分に残るコクに目尻が下がります。
んめーなっ!
と、私の感想はごくシンプルですが、「これまで知らなかったおいしいものを食べると、感じたことを全部口に出してしまう」性の空は、なんと800字近くにわたって芋煮礼賛の一人言を披露しています。圧巻すぎるのでぜひぜひ本編を読んでみてください。
そして、芋煮を堪能した後の締めは「芋煮うどん」が定石らしく、空に倣って鍋に残った具を一旦取り出し、旨みが煮詰まった汁に茹でうどんと長ネギを入れ、たれで味を調整して再加熱します。
茶色くて甘じょっぱい味は不動の正義ですね。残り少なくなったワンカップをちみちみと飲みながら、むちむちうどんを平らげました。
さらにさらに地元では家庭で芋煮を作る際は翌日の「芋煮カレーライス」も定番とのこと。残しておいた芋煮にカレー粉やルゥを加えるものだそうですが、そんなん、おいしいに決まってますよね。
と、チャレンジしたのはいいのですが、愛用しているカレースパイスミックスを入れすぎてヤバい辛さになったので焦ってマルジュウたれをドボリドボリと加えたら今度は甘じょっぱさがキャパオーバー。豆乳を大量に投入してどうにか食べられる味になったけど冷静に見るとなんだこれは絶対芋煮カレーじゃないよねというものが完成しました。
芋煮の底力を感じました。
***
ミニマムクッキングでもこれだけおいしくてアレンジも楽しめる芋煮。
ますます本場での芋煮会への思いが募りました。いつか夢を叶えたい。
ちなみに芋煮の回の挿絵は、山形出身のラズウェル細木先生が担当されています。
玉置標本 /『出張ビジホ料理録』 [ビジホで開催された日本一小さな芋煮会] より
山形牛に見守られながら芋煮を前にワクワクドキドキしている様子が最高。私もビジホ調理がしたくなってきました。
こちらの夢は割とすぐ叶いそうです。次はどの空ごっこをしようかしら。
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『出張ビジホ料理録』は同人誌ゆえに一般の書店には流通していませんが、以下のお店やネットショップで購入可能だそうです。
『シカク』
『メロンブックス』
※記事の情報は2022年10月26日時点のものです。
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