長野路代 佐藤弘『ながのばあちゃんの食術指南』の再現レシピ《肴は本を飛び出して60》

福岡で地元農産物を使った加工品を手づくりする「野々実会」を運営する長野路代先生が、「西日本新聞」に連載したレシピをまとめた『ながのばあちゃんの食術指南』より、「サンマのうま煮」と「柿のサラダ」を再現! 家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:長野路代 佐藤弘『ながのばあちゃんの食術指南』の再現レシピ《肴は本を飛び出して60》

食を尊ぶ“ながのばあちゃん”が、四季の恵みを享受する術を指南。

◾こんな本です


 “ながのばあちゃん”こと長野路代さんは、福岡で地元農産物を使った加工品を手づくりする「野々実会」を運営し、食のアドバイザーとして広くご活躍されているお方。

本書は長野さんが「西日本新聞」に連載していたレシピをまとめた1冊です。

終戦後、母を亡くした上に食糧難に苦しんだ経験から、「身近にあるものでいろいろ工夫しながら豊かな食卓を作ることを心がけるようになった」という長野さん。長年の経験を活かしたお惣菜や保存食、調味料などのレシピが64品も紹介されています。

はじめの「基礎編」では、基本のだしから、粉末緑茶やサンショウ粉(粉山椒)といった我々には買うのが当たり前になっているものの作り方まで載っていてハッとさせられました。地に足のついた暮らしとはこういうことなのだと。

24時間営業のスーパーやコンビニが各地にあり、地方に住んでいてもネットであらゆるものが買えるこの時代にあって、「欲しければ即、買う」ではなく、まず「自分で作ってみる」という考えに至るのはなかなか難しいこと。でも、それがどれだけ大切で豊かなことかをこの本は教えてくれました。

ご自身の料理人生について、長野さんは巻頭でこのようなことをおっしゃっています。
  今から70年前、終戦後間もないころ、母が腸捻転で一夜で亡くなってからが、私の料理人生の始まりです。
  当時は供出などがあり、農家でさえ食べるものにこと欠くような苦しい日々が続きました。
  ある日のこと。わが家には、ひと握りの米もありませんでした。15歳になったばかりの私は途方に暮れ、代用食のサツマイモをドロドロに炊いたものに少しばかりの小麦粉を入れて練ったくっただけの、ただおなかを膨らませるだけのものを作りました。一日中、野良仕事で重労働をしている父親に申し訳なくて、黙ってそれを食べる姿が、私には涙で見えませんでした。「母さん助けて」と、心の中で叫んだあの日から、身近にあるものでいろいろ工夫しながら豊かな食卓を作ることを心がけるようになりました。
  ときは流れ、欲しいものは何でも手に入れることができる時代になりました。でも、私は、あの日の思いを忘れずに、これまで培ってきた技と経験を伝え、残していきたいと思うのです。家族にとって、舌の記憶は一生のものであり、こころの古里。どんな人生を歩いたとしても、必ずや心の拠りどころになると信じて。

長野路代 佐藤弘 /西日本新聞社『ながのばあちゃんの食術指南』「あの日の思いを忘れずに」より
まだ中学生の子どもにはあまりにも辛い経験だというのに、それをただ嘆くのではなく原動力として、食への探究心と技術を重ねていった長野さん。梅干しや季節の山菜、漬物などの保存食作りに加えて旬の食材を無駄なく使い、日々の糧とする長野さんの姿に心を洗われる思いです。

今の自分の暮らしにすべてを取り入れることは叶わなくても、時には手間や時間を惜しまずに、心の拠りどころになるような料理を作っていきたいものです。

長野路代 佐藤弘 /西日本新聞社『ながのばあちゃんの食術指南』より

『ながのばあちゃんの食術指南』ここを再現

「春の一品」「夏の一品」「秋の一品」「冬の一品」「おすし」「スイーツ」と6つの章に区切られた中から、「秋の一品」の2品を再現してみました。
 

◾お品書き

  • サンマのうま煮
  • 柿のサラダ

『ながのばあちゃんの食術指南』再現レシピ①|サンマのうま煮

サンマのうま煮

材料、レシピはこちら。画像をクリックすると拡大します。

長野路代 佐藤弘 /西日本新聞社『ながのばあちゃんの食術指南』「秋の一品」より
■食べてみました
長野さんは「私は安い時に箱買いし、大鍋でうま煮をこしらえます」と書いておられますが、みなさまご存じのとおり昨今のサンマは高級魚の仲間入りを果たしたようで、箱買いなんて夢のまた夢。私めはレシピの半量、2尾をつましく煮てみました。

煮魚ははじめから全ての調味料を入れてガーッと煮るのがズボラな私のいつものやり方なのですが、このレシピでは骨まで食べられるように調味料を加える段階を分けてじっくりと煮ていきます。

おっと、その前に、内臓の取り方も初めての方法でした。これだと流し台やまな板に内臓が広がらなくて下処理が段違いに楽です。精神的にも。いいこと覚えたな〜。

2時間近くかけて完成したサンマのうま煮は、骨までほろりと柔らかく、それなのに身がぐずぐずと崩れることはない絶妙な仕上がりでした。

甘露煮のように濃い味付けではないので、サンマの風味もちゃんと感じられます。仕上げに振るゴマがまた合いますね〜。やー、まさにこれは「うま煮」です。

一緒に煮た梅干しもサンマのエキスを吸っているためか立派なおつまみになっていて嬉しい嬉しい。

大事に煮たサンマをバクバク食べるのがもったいなくて、ひと切を3口ほどに分けながら、ひや酒をちびりちびりと飲みました。ご飯のおかずとして作られているレシピだけに、日本酒との相性の良さは言わずもがな。

奇跡的にサンマが安くなったら、ぜひまた作ってみたいオツな味でした。

『ながのばあちゃんの食術指南』再現レシピ②|柿のサラダ

柿のサラダ

材料、レシピはこちら。画像をクリックすると拡大します。

長野路代 佐藤弘 /西日本新聞社『ながのばあちゃんの食術指南』「秋の一品」より
■食べてみました
フルーツを料理に使うのは大歓迎派で柿はよく白和えにしていますが、サラダは初めて。しかもベーコンを加えるというのがなんだかハイカラですよね。かわいらしいビタミンカラーのサラダで酒卓が華やぎます。

ベーコンの塩気が柿の甘さを引き立て、その間にキュウリの清涼感が加わってなんともいい組み合わせ! これ好き!

サンマからの流れで日本酒を合わせていただきましたが、ハイボールやワインにも合いそうです。

伝統食だけではなく、このように現代の食卓に合わせたレシピも多々考案されているのが長野さんのすごいところ。さらに「里芋のアイスクリーム」なんて大胆なおやつメニューもこの本には載っていて、長野さんの自由闊達な食アンテナに驚かされます。どんなアイスなのか、気になりますよね〜。

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私にとって、今後の食生活に影響を与えてくれたこの本。

みなさまにもぜひお手に取っていただきたいと思ったのですが、残念ながら現在は在庫がない状況のようです。

ニュースサイト「西日本新聞me」には、西日本新聞連載時の「ながのばあちゃんの食術指南」の記事をまとめたコーナーがあるので、気になった方はこちらをご覧くださいませ。
※初回をのぞき有料会員限定記事となります。
 
※記事の情報は2024年10月15日時点のものです。
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