藤野千夜『団地のふたり』の再現レシピ《肴は本を飛び出して62》

テレビドラマ化され話題。50歳を迎え、生家である団地に戻った幼馴染の2人の友情を描いた、藤野千夜先生の『団地のふたり』から「野菜焼き」を再現! 家飲み大好きな筆者が「本に出てきた食べ物をおつまみにして、お酒を飲みたい!」という夢を叶える連載です。

ライター:泡☆盛子泡☆盛子
メインビジュアル:藤野千夜『団地のふたり』の再現レシピ《肴は本を飛び出して62》

生まれ育った団地に出戻った50歳幼なじみコンビの、ささやかで穏やかな日常。

◾こんな本です

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築60年の団地に住むなっちゃん(奈津子)とノエチ(野枝)は保育園の頃からの幼なじみ。
  小学校も中学校も地元の公立で、ずっと一番の友だちだったから、おたがいの小さな恥も誇りも、本気だった初恋のゆくえも、ほとんどその場で目にしている。

藤野千夜 /『団地のふたり』(双葉社文庫)[第一話 山分けにする]より
共に一度は団地を離れてそれぞれの道を進んだものの、50歳になった今はまた団地に戻って毎日のように会う仲に。絵が好きだった奈津子はイラストレーターになるも、近頃はネットフリマやオークションでの取引で日々の暮らしをまかなっていて、ノエチは非常勤講師の掛け持ち。

一人暮らしの奈津子の部屋に、両親と暮らすノエチが遊びに来てはご飯を食べたりテレビを見ておしゃべりしたりの穏やかな付き合い方がなんとも心地よさそう。時には喧嘩もするけれど、タッグを組んで団地内のお年寄りを助けるプチ偉業もこなす、ふたりのほのぼのとした暮らしに心がほんわかしてくるお話です。

これを読んで、子どもの頃に団地暮らしに憧れたことを思い出しました。

集合住宅に住んだことがなかったので、同じ団地、なんなら同じ建物の中に友達の家があり、ほんの少し階段を登ったりするだけで遊びに行けるのがとても羨ましかったのです。大人同士も仲がよく(と、子どもの目には見えました)、ほかの棟の子も家族や親戚のようにつながっている“輪”のようなものが眩しかった。昭和の時代の話です。

大晦日にはご近所のお年寄りたちの代わりに都心で買い出しをして、奈津子の家のこたつで年越しをするふたり。
「若い頃、もっと大勢でやったねえ、朝まで忘年会」
  奈津子は言った。むかしよく遊んだグループとは、誰かが離職したり、郷里に帰ったり、出世したり、異動したり、メンバー同士仲違いしたり、みんな家庭を持って立派に暮らしていたりで、今ではほとんど付き合いがなくなってしまった。
「いいよ、今はふたりで」
  とノエチは言った

藤野千夜 /『団地のふたり』(双葉社文庫)[第五話 出られない、いや、出たくない]より
世間的には「はぐれ者」とされるふたりが、大型マンションやビル、幹線道路に取り巻かれた古い団地で支え合って楽しみや悲しみを共有し合って暮らしていく。
「なんかオアシスみたいだよね、ここって」

藤野千夜 /『団地のふたり』(双葉社文庫)[第五話 出られない、いや、出たくない]より
50歳を越えた独身の身としては、できることなら隣の住人の顔も知らないマンション暮らしを捨ててこの団地と書いてオアシスと読む場所に引っ越したい!とわりと切実に思ったりもしました。どこかにないかしら、こんな団地。

『団地のふたり』ここを再現

今回再現するのは、奈津子がノエチと一緒に食べるために作った一品。

奈津子が毎月取り寄せている定期コースの旬野菜が届いた日のメニューです。
「野菜焼き、食べる?」
  ノエチに訊くと、
「食べる」
  とうれしそうに答えたので、人参、玉ねぎ、メークイーン、紅はるか、大長なすを薄切りにして、塩こしょうと香草のシンプルな味つけで、野菜焼きにする。

藤野千夜 /『団地のふたり』(双葉社文庫)[第一話 山分けにする]より
最初に読んだ時、「あら、おいしそう!」と即座に反応したものの、再現すると決めてからは「どうやって焼くんだろう? 耐熱皿に入れてオーブン焼き? それとも野菜炒め風に?」「香草はどんな種類?」とハテナ続き。

それを解決してくれたのは、ドラマでした。

ご存じの方も多いでしょうが、『団地のふたり』は、奈津子役は小林聡美さん、ノエチ役は小泉今日子さんという素晴らしい素敵なキャスティングでドラマ化されて、大きな話題になりました。

私はこのドラマ見たさに動画配信サービスに登録をして、少しずつ楽しみに観ている途中。まずはこの「野菜焼き」のシーンを探したところ、第一話にしっかり登場していました。やった〜!

小林聡美さん演じる奈津子は、おいしそうな焼き目をつけられるグリルパンで野菜を焼き、そこにはフレッシュのローズマリーが添えられていました。

野菜の種類は本編とは違うものでしたが、調理法と香草はドラマを参考に、いざ再現!
 

◾お品書き

  • 野菜焼き

『団地のふたり』再現レシピ|野菜焼き

野菜焼き
<材料>
・人参
・玉ねぎ
・メークイーン(じゃがいも)
・紅はるか(さつまいも)
・大長なす
・塩コショウ
・香草(ローズマリー)

<作り方>
① 野菜はすべて薄切りにする。
② フライパンに野菜を重ならないように並べてローズマリーをのせ、火が通るまで焼いて塩コショウで味付けする。
※私は火の通りにくいものから先に焼き始めました。さつまいも→じゃがいも→人参→玉ねぎ、なすの順です。

■食べてみました
なんてシンプルで潔いお料理なんでしょう!

私は近所のスーパーで買った野菜を使いましたが、それぞれの味がストレートに感じられてなんだか新鮮な気持ちになりました。特にじゃがいもはチーズやバターなどの乳製品と合わせがちなところ、ただ焼いただけでもほっくりとして優しい甘さがあることに気づいて感動。ローズマリーの香りがほのかにうつっているのがまたよかったです。

この削ぎ落とされたレシピは「届いたばかりの野菜は、なるべく素材そのままを味わいたい」という奈津子の思いの表れなのだと再現してみて実感。

自分ならオイルを絡めたり味付けにドレッシング的なものを使ったりと何らかの味を加えてしまいそうですが、たまにはこのように素材そのものに向き合ってみるのもいいなぁと思いました。

ふたりはこの野菜焼きと豆腐と特大なめこのお味噌汁、土鍋ご飯を並べて、お互い今日最新の気持ちを話しながら食事を楽しんだよう。

私は白ワインをお供に、いつになくヘルシーな晩酌をじっくりと堪能しました。季節ごとに野菜の種類を変えてみるのもいいな、なんて思いながら。

***

今回の再現レシピ企画が決まった頃、『団地のふたり』の続編が発行されるという嬉しいニュースがありました。

タイトルはこれまたシンプルに『また団地のふたり』。さっそく購入して読みましたが、今回もまたおいしそうな食べ物が登場していました。

奈津子が最近常備しているという赤米と麦入りご飯に梅干しやじゃこ、おかか、枝豆、ごまなどを混ぜたおにぎり、1時間待ってでも食べたい喫茶店の分厚いホットケーキ、台湾映画を観るために用意した台湾フードあれこれ(干し豆腐の炒め物は絶対真似したい!)などなど。

もちろん食べ物だけではなく、ふたりを取り巻く人間関係の温かさも存分に楽しめる2冊目を読み終え、早くもこの続きが読みたくてたまらない気持ちでいます。

※記事の情報は2024年12月3日時点のものです。
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